第473話 神運営許すまじ

 

 160階層の攻略に詰まっていた最前線の探索者たちがごっそりといなくなったことで、上位の神台に映るPTも一気に入れ替わった。最高到達階層も150階層まで下がり、時間帯にもよるが百番台以内に120階層が映ることもある。


(この状況下のオルファン、結構いい位置つけてない? 何というか動きも……別に悪くはないし)


 そんな中143階層を探索しているオルファンの姿を神台で捉えながらも、努はこれでもかと塩が振られた揚げたてのポテトをつまみつつ膝の上に刻印装備を広げていた。その後ろで護衛気取りのハンナは肉厚コロッケにかじりついたものの、溢れ出た肉汁にあたふたしている。


(一番台のPTとかも中堅どころとはいえ、動きは大分しっかりしてる。無難に強いし、ゴリナ二号機とかぶっ壊れてない? スキル回しが詰められてないとはいえ、ただの通常攻撃で独自の火力出せるのは強いよな。結局は一長一短って感じ)


 コリナ同様血濡れのモーニングスター片手に暴れ回りながらヒーラーもしている祈祷師は、一番台の他にも入っているところが多い。恐らくアルドレットクロウの二軍祈祷師であるカムラを筆頭に、無限の輪や紅魔団でも台頭してきていることもあってか祈祷師は現状Tier1といったところだろうか。

 それに努が輸入した三種の役割はこの三年の間でも、迷宮都市という環境で更に磨きがかけられている。PTの練度も大分上がっている様子で、それこそオルファンですら数年前のアルドレットクロウよりかは仕上がっているだろう。この数ヶ月で神のダンジョンの環境をある程度把握した努から見ても、今の探索者たちの立ち回りが間違っているとは思えない。

 武器防具屋の存在を忘れて物理と戦略で乗り切るも、進むにつれてどんどん辛くなっていくRPG。努の目からは今の探索者たちはそのドつぼにハマっているように映った。

 ただ、それは決して攻略不可能なRPGではない。それこそステファニーぐらいの上級者ならば縛りプレイ状態だろうが攻略はできるだろうし、そうやって150階層を越えて徐々に進んでいったのだろう。

 しかしそれはとても万人に勧められたものではない。実際に150階層主に挑んでいるPTの練度は決して低くないし、適正レベルにも達している。にもかかわらず突破できるPTは極わずか。

 だが、突破できているPTがいるという現実。そのために80点は出せているであろうPTの立ち回りを更に磨き上げ、100点を目指し邁進まいしんする。


(実際、最前線組はそれでも突破してるんだし、単純な実力で突破したくなる気持ちはわからんでもないけどね。試合に勝って勝負に負けた感じするし)


 一切のミスをも許されないRTA覇者のような100点の立ち回りで突破したPTがいる中、装備やバグなどに頼って抜け出すのは無様なのかもしれない。実際に努とてアルマに頭を下げれば黒杖を使って楽に階層攻略できるような場面があったが、敢えて自力で突破したことがある。

 それは他人からすれば鼻で笑うような安いプライドなのかもしれないが、それでも自身の矜持だと思うことを貫くのは間違いではない。


(だけど、今の環境は明らかにアルドレット工房、もしくはアルドレットクロウそのものが操作してるしな。にもかかわらず実力だけを高めるのが探索者としてあるべき正しい姿っていうの、おかしくね? 神様にでもなったつもりかよ。いや、そもそも神様だろうと環境操作しようとするのはムカつくけど)


 ぶっ壊れスキルが運営に下方修正されるのならまだ納得はできるが、たかがプレイヤーの集まりに攻略方法を制限されるなどたまったものではない。それも縛りプレイの押し付けなど地獄に他ならないし、それを探索者の常識にすげ変えて利益を得るなどちゃんちゃらおかしい。マナー講座を開くために新たなマナーを作る輩のようなマッチポンプ。それをぶち壊すためなら多少の犠牲は厭わない。


(……でもこれ、火竜の時も状況は違えど同じような状態だったよな。もしかして運営、僕をバランス調整に利用してるんじゃないか? そう考えると神運営に踊らされてるみたいでムカつくけども、目の前で刻印装備の制限してやがるアルドレット工房がムカつくことに変わりはない)


 火竜の時は逃げ回るシェルクラブのゴリ押し突破によってアタッカーが崇拝される環境になっていたが、今回はアルドレット工房により人為的に刻印装備の生産が制限されることによって階層更新が滞っている。それもあくまで探索者としての常識としてサブジョブを育てることを抑制したり、生産職のプライドを利用して対立させたりなど、やり口も小賢しい。


(今は盤上で踊ってやるけど、いずれは神運営も引きずり出してやりてぇ。意思があることは明らかだし、感謝も愚痴も尽きないし。このまま裏から操られるだけで終わってたまるかよ。問題はどうやって引きずり出すかだけど)


 それを潰すのには努も異論はないし、元々『ライブダンジョン!』でもあくまで運営が取り仕切っている中で遊んでいるだけなので、踊らされるのもやぶさかではない。しかしだからといってこのまま神運営の思惑通りにバランス調整役を押し付けれられ続けるのは不愉快だ。

『ライブダンジョン!』に似た神のダンジョンがあるこの世界に呼んでくれたこと自体には感謝しているが、それと同じように開幕百階層に飛ばすわ帰る時にひと悶着起きるように仕向けてくるわと、ボロクソに言ってやりたい気持ちもある。


「ポテトもらっていいっすか?」
「自分で買いなよ」
「面倒くさいっすー。それに師匠、そんな食べてないじゃないっすか」
「今日はどうしてもポテトが食べたい気分なんだよ」
「一個だけっすよ」
「一個も嫌だね」


 そうにべもなく言いながらポテトをばくばく食べ始めた努を、ハンナは聞き分けのない子供でも見るような目で睨んだ。


「……これは、喧嘩っすか?」
「死因、ポテトをめぐる争いっていうのもハンナらしいかもね。ダーウィン賞に選考されそう」
「……?」


 言葉の意味を理解するのに時間を要している様子のハンナにポテトの袋を渡した努は、ひょいとベンチから立ち上がって屋台の方へと向かう。嬉しそうにポテトの袋を覗き込んだ彼女は、それを握り潰すと魔石の入ったマジックバッグに手を突っ込みながら血眼になって彼を捜した。

 そして屋台で山盛りポテトを買っている様子の努を発見し機嫌を直した。

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