第759話 機械階層のドラフトピック
180階層における神の眼設定による暗雲晴らしはPTメンバーにつき一回きりであり、周回するためには改めて何かしらの対策が必要となった。
「私は暗視装備で手一杯なのですよ。これで周回遅れにしてやるです」
「ですよねー。頑張ってー」
鼻息を荒くしているユニスは暗雲で式神:月が隠れる中でも視界を確保できる暗視装備を開発中であり、それにかかりきりで努に手を貸す暇はなかった。彼女が開発に成功しその暗視装備が後からこちらに回ってくるに越したことはないので、努は徹夜気味な彼女に脳ヒールをしておいた。
「……これは、回数券使わないですよね?」
「別にいいけど。でもそれ、今日から有効期限一年ね」
「はぁ!? 後出しはズルなのです!!」
「勿体ぶって使わなすぎなんだよ。一生それをチラつかせられるこっちの身にもなれ」
「前も勝手に改悪したのです! 裁判に訴えたら勝てる案件じゃないのですぅ!?」
「やめなよ、みっともない」
頭に手を置かれて口をもにょつかせていた態度から一変してクレーマーと化したユニスから逃げた努は、そのままゼノ工房で冬将軍:式の双剣と春将軍:彩の防具に刻印を依頼した。
「これは失敗できないですね」
「それは本当にそうだからよろしく。この二つ毀損されたら機械階層の攻略に関わるよ」
「ぷ、プレッシャー……」
そんな努の言葉で双剣を担当する若いドワーフであるノルグの口端は引き攣り、布装備を扱う鳥人のマダムも遠い目でぼやく。そんな職人二人に刻印の加工を任せた努は、ちょこちょこ付いてきていたユニスを置きざりにゼノ工房から脱出した。
ただ180階層が二回目である努PTやステファニーPTはまだしも、その他のPTはまだ神の眼の設定弄りによる暗雲晴らしは可能である。そのためには神の眼の設定欄を予習しなければならず、今までろくに触れてこなかった探索者たちは苦労している様子だった。
「見えたぞ!」
そんな中で神の眼には元から詳しかったゼノは高確率で設定の粗を見つけることができ、三回目で彼のPTも180階層を突破した。その他にもアルドレットクロウの二軍も深夜の神台に詳しかったルークが見つけて突破し、各々将軍の装備を手に入れていった。
しかしそれに専用刻印があることは刻印士レベル70でなければステータスカードで閲覧することができないため、その評価はまだ少し強い程度に収まっている。それに計4PT突破したが宝箱からのドロップ品に夏将軍:烈の槍や彩烈穫式天穹は出ていない。
それこそ槍士や弓術士が宝箱を開けなければ出ないのではないかと噂されているが、ルークが開けた宝箱から冬将軍:式の双剣が出たので関連性は強くない。ステファニーは秋将軍:穫の薙刀を手に入れており、最近はマジックロッドで慣らしている。
「あの弓欲しいけど180階層周回はしたくない」
「それはみんなそう。僕も薙刀手に入れて刻印入れたいよ」
「うむ。私も鎧が駄目になったからな。出来ることなら180階層で新調したいものだ」
「早く潜りたいっすーーー」
ゼノPTが突破するまで休みだったディニエルは最後の休日にソファーで寝転がりながら駄弁り、ガルムは背後から忍び寄る彼女の手を藍色の尾でぺしっと叩く。ハンナはクランメンバーたちが集まるのを今か今かと待っていた。
明日から無限の輪はPTを再編成し、機械階層の探索を開始する。なので今日はPTのドラフトピックを行う日となっていた。
そんなハンナの様子を少し遠目から窺っていたコリナは、顔を俯かせながらお腹をさすっている。
「……胃が痛くなってきました」
「嘘つけよ。夕食運ばれてきたらすぐ治んだろ」
「私を何だと思ってるんですかぁ……?」
「なぁダリル?」
「巻き込まないで下さいよ」
「でもこいつもコリナが? 嘘だぁー? って顔してたぜ」
「…………」
「ダリル……?」
何やら犬耳の挙動がおかしい彼にコリナが視線を向けているうちに、ゼノもクランハウスにやってきて無限の輪のフルメンバーが揃った。それを見計らった努が円卓に着席した一同を見回す。
「それじゃ、ドラフト会議始めるよー。今回はヒーラーの僕とコリナがピックするからよろしく。それじゃあ、先攻後攻決めるじゃんけんからで」
「よろしくお願いしまぁす……」
「じゃんけーん……」
「…………」
「ぽん。あいこでしょ。あいこでしょ。僕の勝ちー。それじゃ先攻で」
何やらじゃんけん音頭に気恥ずかしさが見えるコリナをパーで下した努は、それを微笑ましげな表情で見ていた銀髪の男に目をやる。
「それじゃあゼノで」
「……すまないな皆。ドラフトピックともなると、私はどうも一番に選ばれてしまう質らしい」
「くたばれ」
「二つ前はコリナとセットで選ばれてただけだし、一つ前は自分でドラフトしたでしょ」
いの一番の指名を受けた彼はアーミラとエイミーからのブーイングに対し、耳に手を当ててうんうんと深く深く頷いてみせた。その態度に努は苦笑いしながらコリナにどうぞと手をやる。
「……ゼノが取られるのは予想外でした」
「そろそろあれと組むのも飽きたでしょ? 僕は組んだことなかったから」
「なるほど。それならガルムと、うーん」
タンクは決めていたようだがアタッカーは決めあぐねていたのか、コリナの目がきょろきょろと動く。だが最後には赤髪の女性に落ち着いた。
「アーミラでお願いします」
「おっけー。それじゃあ僕は……」
そもそも聖騎士のゼノと白魔導士は役割が被る部分があるため、火力に懸念が残るPTとなる。であれば爆発力のあるハンナも悪くないが、180階層で進化ジョブ介護までさせられた努はしばらく彼女とPTを組みたくなかった。
「ダリルとリーレイアで」
「えっ」
そんな努の言葉に対面のコリナが思わず声を漏らす。ご指名のリーレイアも一瞬目を丸くして顔を上げたが、ディニエルに流し目をくれてやった後に顔をにんまりさせた。
「素晴らしい選択です。また精霊パートナーとなれることを楽しみにしていますよ」
「精霊奴隷をいい感じに言い換えて誤魔化すなよ」
「貴方は奴隷に収まる器でもないですから」
彼の選択に対してはハンナも目を見開き、エイミーはやってるよこれとため息をつく。当のディニエルは素知らぬ真顔ではあるが、その心中は窺い知れない。
そして残すところ三人となったドラフトで最後の選択権を有したコリナは、うずうずした目を向けてくるハンナから目を逸らした。
「……えっと、ごめんなさい。ハンナとエイミーで」
「えっ」
そんな彼女の選択に、てっきり自分とディニエルが選ばれるとばかり思っていたハンナが素っ頓狂な声を漏らす。するとディニエルはすくっと立ち上がり努の方へと寄った。
「よろしく」
「よろしく、余り者」
「案外ムカつくかも」
「おいやめろ」
ヘアゴムを解こうとしたディニエルを努が宥める中、無限の輪のドラフトピックは終了した。努PTはリーレイア、ディニエル、ゼノ、ダリルの計五名。コリナPTはアーミラ、エイミー、ハンナ、ガルムとなった。
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