第793話 邂逅
神華がエイミーの身体を乗っ取ったまま逃げの姿勢を見せ、それに雷鳥が上空から雷撃を落としていた最中。フライで上がってきた努が手をあげると、雷鳥は怪訝そうに目を細めて雷撃を放つのを止めた。
「雷鳥、さっきまで神威に乗っ取られてなかった?」
『…………』
そんな努の問いかけに雷鳥は白々しく視線を逸らしたまま動かない。そんな態度に努は頭を指でかきながらも視線は外さない。
そもそも雷鳥の神華に対する初めの立ち振る舞いからして違和感は覚えていた。180階層でさして意識もない式神:月にすらブチ切れて雷撃をかまし、それが原因で攻略が失敗したにもかかわらず空を飛んで逃げ回る老害仕草を見せた頑固親父。
そして機械階層では雷が有効であることは明白だったため、努から水を向けられてようやく仕方ないのう!! と降りてくるようなプライドの高さ。そんな雷鳥があの神華に対して大人しくしていることからしておかしかった。
ただ神華の口ぶりからして、雷鳥は神威が不死鳥を参考にした二番煎じの創造物であることは窺い知れた。そのことから神華を明確な上位存在として認識した雷鳥がビビっている可能性もあった。
ただ努が嵌めていた守精指輪から不意に伝わってきた、勘違い女に心底辟易したような感情。それは神華が神威に言及した時に一度だけ努へと流れてきていた。
神華がエイミーの身体を乗っ取っているのであれば、その半身を分けた神威にそれが出来ない道理はない。あの電磁波に乗ってきた感情は、雷鳥に神威が憑依しているが故に流れてきたのではないかと推測はできた。
「だとしたらさっさとあいつ何とかしてくれない? プレイヤーの管轄外だろあれは」
『…………』
そんな努の言い分に対して雷鳥は胡乱げに長い首を動かして空を見やった。それに努も釣られて上を見ている内に、雷鳥の目が微かに輝く。それは先ほどからエイミーに宿っていた神光にも近かった。
『ライブダンジョン!』を通じて自分をこの世界へと連れてきた存在。それとようやく相対した努は感慨深げに息を吐く。
「問い合わせフォームもないのに神運営と繋がって何よりだね」
『…………』
「こうして会うのは初めてだし色々と言いたいことは山ほどあるんだけど、一先ずあれどうにかしてくれない? 運営案件でしょあれ」
その要望に応えるように、雷鳥から守精指輪を通じて神光が努へと流れ込んできた。その光を前に努は神威に身体を乗っ取られることを予期して身を固くしたが、雷鳥が意識を取り戻した後も彼の意識は依然としてハッキリしていた。
「ヒール」
何か変化があるのかとスキルを使ってみたり、拳で空を突いてみたりしたが特に変化は見られない。そのことに努は首を傾げながら雷鳥に向き直る。
「……てっきり神威が僕の身体を受肉体にして追い払ってくれるのかと思ってたけど」
『ギィ』
そんなこと儂に言われても、と言わんばかりに嘴を鳴らす雷鳥と一緒に努も困惑している中、神華は結局誰も追いつけぬままこの場を去っていった。
(神運営が対処する前に行っちゃったよ、エイミーどうすんだこれ)
流石にこのままエイミーを連れていかれるのは業腹だが、かといって神運営に等しい神華にプレイヤーである自分たちが対処できる道理はない。やっぱ帝都のダンジョンって糞だわとネガティブキャンペーンで探索者をじわじわ削っていけば、神華の力も弱まってくれるだろうか。
実力行使は難しいと判断しそんな策を考えつつ、努は茫然自失でフライもままならなそうだったディニエルを補助して地上に下ろした。そして恨みがましい目を向けてくる彼女に神運営案件かとぼやきつつ、周囲の被害状況を確認する。
この中で最も被害を被ったのはハンナだろう。青翼は見るも無残な骨子となり、フライも使えないのか今も地上でバタバタとしている。ただそれは彼女が神に全力を出し尽くして挑んだ代償であり、半分以上は自分から火に飛び込んだに等しい。
その次は手の指を全損したコリナだろうか。ただ複数の白魔導士の手を借りれば数日で復元はできそうなので、さして問題はなさそうだった。
「……それって、解除できないの?」
『ヴゥ……』
「メディック。……駄目か」
神華によって神龍へと変えられていたアーミラは自力での解除ができず、メディックによる解除も受け付けなかった。そのため身を縮こませて努の話を聞いている彼女はどこか不安げな様子だった。
「せ、せいれいが」
神華に触れられスキルとステータスを全て剥奪されていたリーレイアは、正真正銘のか弱い女性になっていた。今も失った精霊との繋がりが信じられず呆然としており、しばらくは使い物にならなそうだった。
「……まぁ、一旦無限の輪で集合しようか」
この場にはいないダリルやゼノ含め、今後のことについては話しておく必要がある。そう判断した努はその中でまだしっかりしていたガルムを連れてクランメンバーたちを纏めた。
まってました!