第628話 まずは雑魚敵から

 ハンナが万が一にも暴発しないようまずは式神を優先的に倒し、ドロップする魔石を死守せよと努は指示を出した。彼女の危険性を前PTで理解していたエイミーとアーミラはすぐさまそれを実行する。

 そして本当にドロップした魔石を優先して拾い始めた二人に、ハンナは青い翼を逆立てた。


「あーあーーー!! そっちがそんなにどろぼー扱いするならあたしだって好きにするっすよぉ!?」
「好きにするのは構わないけど、それに伴う責任は背負えよ?」
「…………」


 ハンナはやけっぱちで式神のヘイトを取り自力での調達を試みようとしたが、努の脅しでそれは話が違うじゃないっすかと青翼を渋々と下ろす。そんな彼女にガルムは憐むような顔をしつつも、魔石を蹴って遠ざけてはいた。


『――――』


 突然自分たちの愛の巣に押し入ってきたと思えば、何故か身内で言い争い始めた憎き人間ども。そんな奴らを纏めて薙ぎ払ってやろうとインクリーパーの黒い触手が水風船のように膨れ上がる。


「回避!」


 ちゃぶ台にある食器でも払いのけるように振られた触手。正直なところ見掛け倒しにも見えるそれが色折り神の補強している壁をへこませたことを、努は既に神台で目にしていた。そんな彼の指示にPTメンバーは従いフライで飛んで避ける。


「パワースラッシュ!」


 その触手を避け様にアーミラは逆さまの状態でスキルの力を乗せた大剣を振る。咄嗟のカウンターによって触手を切り裂かれたインクリーパーは黒い体液をまき散らして悶絶し、彼女は態勢が悪かったこともあり吹き飛ばされて天井に激突した。


「ヒール」


 すぐに復帰したものの身体を痛めた様子のアーミラに努は回復スキルを当てながら、インクリーパーの体液が部屋の床に異様な速度で吸い込まれて消えていく様を眺めていた。


(百羽鶴が出てくるまでに討伐しちゃうのがセオリーなんだけど、なんか怪しいよな。実質刻印油の体液が色折り神に回収されてるようなもんだし。でもカムラPTも様子見で撤退したから情報がない)


 先行していたカムラPTはインクリーパーと百羽鶴を相手取り多少戦闘はしたものの、他のPTにあまり情報を落としたくなかったのか余裕を持って撤退していた。

 なのでいずれ色折り神に折られた百羽鶴が出てくることはわかっていたが、その間にインクリーパーを倒したら何が起こるのかは不明である。


(どちらかといえば超強いやつ一体の方がマシかな。あれが生きたままだとハンナが事故る可能性もあるし)


 先ほどの膨張など個性的なモンスターであるとはいえ、インクリーパーが触手型モンスターであることは変わりない。なので今のハンナは経験則を基に攻撃を避けられているが、そこに百羽鶴というノイズが加わると怪しくなる。


「百羽鶴が出てくるまでに殺し切るよ」
「おっけー。アーミラ、一気に仕留めるよ!」
「へいよ」


 この部屋にいた式神は狩り終わり魔石も回収していたエイミーは、首の調子を確認するように回しながら自身の赤い鱗を取っていたアーミラに近寄る。


「龍化結び」


 自身の鱗を媒体として他のPTメンバーに龍化を分け与える派生ユニークスキル。エイミーの手の甲へ押し花のように張り付けられた赤鱗は発光し、彼女の目が爬虫類のように獰猛な形に変化する。


「龍化」


 そして自身も龍化しDEX器用さ、LUK以外のステータスを一段階引き上げたアーミラの背中から、龍の翼がせり上がるように生える。


「ヘイスト」


 そんな紅白の龍たちに努が青い気を当てると、二人は顔を見合わせてうずうずしたような笑みを浮かべた後に飛び出した。


「エアスラッシュ!」
「双波斬」


 ガルムを叩き殺そうと唸りを上げていた触手の先をアーミラは大剣を切り上げるようにして切れ込みを入れ、エイミーがそこを狙って切断した。黒い結晶のように固まっていた筆先が地に落ち、陸に打ち上げられた魚のようにばたつく。


岩割刃がんかつじん


 その切断面に飛びついたエイミーが傷口に塩を擦り込むような追撃を行い、触手は肉割れを起こして痙攣した。そして力尽きたように地面へ横たわった触手はずるずると空いた床穴へと戻っていく。

 すると首を一つ落とされて激昂した八岐大蛇かの如く、数本の触手がエイミーに迫った。


「シールドバッシュ」
「ヒール」
「パワースラッシュ!」
「ブースト」


 既に数本の触手を受け持っていたガルムが身を挺して一本止め、そんな彼の負った打撲傷は同時に着弾した緑の気によって癒された。アーミラはその一本を迎え撃って怯ませ、エイミーは後ろから糸にでも引かれたようにその場を離脱し触手は空を切る。


「むぅ~~~」


 少し離れた場所で触手のヘイトを取りつつ何とか魔石を調達できやしないかと画策していたハンナは、何だかいい感じに連携している四人を見て祈禱師から移った口癖を漏らした。


「ヘイスト」
「…………」


 だが努からのヘイストは欠かさず来て、ついでにボディーランゲージで触手をどうにかしろと指示も出された。それで疎外感はなくなったハンナは無色の魔石を砕いて魔力を翼に巡らせ、変換した力を両手に纏わせ綱引きでもするように触手を引いた。


穏静おんせいの刻印で意外と精神力持ってかれるから、普通にサボってくれた方が助かるまであるな。本当にスネたらダルいからやらないけどさぁ)


 スキルの精神力消費が増大する代わりにモンスターからのヘイトが軽減される刻印が刻まれた白杖を持つ努からすれば、支援スキルは一つでも節約したい心境だった。

 だがもしそれをすればハンナのパフォーマンスが落ちることは明白だったので、かまってちゃん蒼鳥にその調子だとガッツポーズを送る。そんな努の心境もつゆ知らず機嫌を良くしたハンナは、地中に逃れようとする触手を全力で引いた。


「いただきぃ!」


 伸縮性もあるためか受け流されることもある触手を大剣で一刀両断するには、誰かに食いついて拮抗しているところを斬るのが常套手段である。その好機を見逃さなかったアーミラはすぐさま動き、彼女が足止めしていた触手を切断してみせた。 

 そんな調子で床から出る触手を次々に仕留めていき、インクリーパーの手足が封じられていく。そして全ての触手が回復のため地面に引っ込んだところを見計らい、インクリーパーの球根が埋まっている場所を見定めていたエイミーが双剣を持ち替えた。


「岩割刃」


 地面へ突き立つように振られた双剣が床に刺さり、その勢いを伝播させる。それでインクリーパーの嫌がる鼓動を察知したエイミーは、再び触手が出てくる前に双剣で床を掘り進める。


「兜割りぃ!」


 そして黒い球根の表面が見えたところで飛び上がったアーミラが大剣を深く突き刺し、止めを刺すように捻った。それが致命傷となりインクリーパーはその球根から大量の黒い体液を噴き出して絶命する。

 それと同時に部屋の奥で封鎖されていた一幕が開き、その体積を大幅に減らしている色折り神が姿を現す。その横には十羽鶴を豪華に飾り付けたような姿をした百羽鶴が鎮座している。


『――――』


 インクリーパーが絶命したことを自身の体で作成した部屋を通じて察していた色折り神は、透き通るような泣き声を上げた。すると百羽鶴に施されていた刻印が成立し、床から吸い上げられていたインクリーパーの体液によってその身を黒く染めていく。


「インクリーパー、生かさず殺さずの方が良いパターンだったかもね」


 カムラPTの神台で確認していた百羽鶴は色鮮やかな折り紙で構成されたグリフォンのような体だったが、努たちが相対しているのは全身が漆黒に染まっている。それに色折り神もトイレットペーパーの空筒みたいな見た目はしていなかった。


「撤退か?」


 百羽鶴が事前に想定していたものとは違う挙動をしていることから、ガルムは既に情報は取れたと判断しツトムから撤退の合図を待った。だが彼は鶴四体で構成された頭も黒く染まっていく百羽鶴を見据えながら、その杖を仕舞うことはない。


「いつでも撤退できるんだし、もう少し粘ろうか」
「そーだそーだー。ワンちゃんは随分と臆病になったもんだねぇ」
「コンバットクライ」


 そうこう話しているうちに百羽鶴の体は完全に黒く染まり、しな垂れていた鶴の顔が持ち上がった。それを見たガルムがすぐにヘイトを取り距離を取る。

 すると百羽鶴はハンナも太鼓判を押す見掛け倒しではない大翼を広げ、そこから羽根を無数に射出した。ガルムは矢のように放たれた羽根を手盾で弾こうとしたが、ディニエルのパワーアローにも匹敵する力に押される。


「ハイヒール」
「ぐぅぅっ!!」


 それが避けられない範囲で展開される中、十数はガルムに襲いかかり手酷い傷を負わせた。刻印によるVITの上昇によって穴こそ開かなかったが、その威力を前に彼は内臓を損傷し吐血していた。


「パワースラッシュ!」


 その間に死角から急接近していたアーミラが大剣でその翼に斬りかかるも、その四面ある鶴の頭は彼女の動きを容易く見通していた。彼女の斬撃は翼の硬い外殻で上手くいなされながら、横を向いた鶴からちゅんと放たれた光線で右肩に穴が開く。

 カムラPTが相手にしていた百羽鶴も同じような攻撃をしていたが、刻印装備持ちの騎士がここまで痛手を負うほどのものではなかった。それに顔からのビームは正面の鶴だけしか放てないはずである。


「ヒール……やっぱり撤退でもいいかもぉ?」
「コンバットクライ」
「ぶちかましてやらぁ!」


 そんな努の弱気な発言を打ち消すようにガルムは再びヘイトを取り、右肩を治されたアーミラは龍の手を具現化させるためにマジックバッグを風呂敷のように広げた。

 コメント
  • 匿名 より: 2024/03/19(火) 8:29 AM

    泥棒扱いじゃなくてただの危険物扱いなんだよなぁ……。

  • 匿名 より: 2024/03/19(火) 8:55 AM

    遠距離から締め続けられるディニエルがやっぱハンナの手綱には最適なんよ

  • 匿名 より: 2024/03/19(火) 10:21 AM

    2024/03/18(月) 11:17 PM
     
    何か合ってるようで大幅に違う
    特にステファニーを根拠扱いしてるとこ
    ステファニーは指揮者として目立つこととか何とも思ってないよ

  • 匿名 より: 2024/03/19(火) 1:05 PM

    更新乙!
    ハンナは火力を発揮できる場面にならないと微妙だな
    本人的にもフラストレーション溜まってそうだし、百羽鶴黒相手に一発ぶちかましてほしい

  • 匿名 より: 2024/03/19(火) 4:56 PM

    ハンナの脳にはボウフラでも湧いてるんだろうか

  • 匿名 より: 2024/03/19(火) 8:04 PM

    更新助かる

  • 匿名 より: 2024/03/20(水) 12:35 AM

    全滅の危機を努が何とかしちゃう流れか?

  • 匿名 より: 2024/03/20(水) 1:38 AM

    色折り神の紙のリソースは有限っぽいけど、先に部屋を攻撃したらどうなるんだろね。

  • 匿名 より: 2024/03/20(水) 1:40 AM

    いつかのハンナの羽根ペン努は今も使ってるんだろうか。
    使ってるんだろうな〜…使ってないとこ見られたらウザ絡みしてきて面倒くさいとか言ってなんだんかんだ使ってそう。

    ハンナと努の絡み方は師弟感があって好き
    更新ありがとうです

  • 匿名 より: 2024/03/20(水) 5:16 AM

    タンクして(´・ω・`)

  • 匿名 より: 2024/03/20(水) 8:15 AM

    倒す際に吹き出るインクを回収出来ればなぁ。引き抜いて搾り取りたい。

  • 匿名 より: 2024/03/20(水) 11:51 AM

    部屋自体にの攻撃は外からの攻撃同様違反事項扱いで即千羽鶴飛んできちゃうんでしょうね
    部屋自体が刻印油吸収して鶴に供給しちゃうギミックが肝ですし

  • 匿名 より: 2024/03/20(水) 12:39 PM

    魔石蹴って遠ざけるガルムに笑った

    泥棒がよ

  • 匿名 より: 2024/03/20(水) 1:15 PM

    努には刻印師だからこそひらめくテクニカルな攻略をしてもらいたいわね
    刻印油を汚損したり刻印をいじったり
    ゴーレムのemeth→methでやり尽くされてるかな

  • 匿名 より: 2024/03/20(水) 1:47 PM

    2024/03/18(月) 11:17 PM
    バランス取ってくれてた地味な奴がスポンサー収入でクランに貢献出来なくて追放されるんだな!?

  • 匿名 より: 2024/03/21(木) 9:20 AM

    黒鶴君硬いみたいだしハンナ汚名返上の機会か?
    いつもみたいに汚名挽回しても良いけどwww

  • 匿名 より: 2024/03/21(木) 9:52 AM

    中ボス戦で苦戦してるの珍しい どうなるかな倒すのか撤退か ツトムは帰りたそうだけどw

  • 匿名 より: 2024/03/21(木) 10:01 AM

    様子見できてて、もう少し粘ろうとかつづけた時は大体うっかり勝つ流れですよね

  • 匿名 より: 2024/03/21(木) 12:15 PM

    ひとつ前の浮島階層でも巨大ミミック(中ボス)で苦戦してるよ
    あとファレンリッチさんも強敵だったらしいよ

  • 匿名 より: 2024/03/22(金) 2:23 AM

    名誉返上汚名挽回
    って平成のネタ?

  • 匿名 より: 2024/03/28(木) 7:25 PM

    「汚名挽回」は昭和時代のガンダムでっせ
    ネタで後から名誉返上もくっつけられたみたい

  • 匿名 より: 2024/03/30(土) 9:53 PM

    アーミラが会話成り立たない輩からちょっとガラ悪い系女の子に進化してるのいい…

コメントを書く