第607話 うきうきソニア

 

 骸骨船長を倒し粒子を上げていた幽霊船が完全に消えてなくなると、風の極大魔石と黒スライムのように固まった刻印油が確認できた。その他に木、銅、銀の宝箱もいくつか確認できたが、今まであれだけ宝物を納品してきたにしてはショボいと言わざるを得ない。


「ドロップ品は宝煌龍の納品数に比例する感じかなー」
「宝煌龍から取れそうな宝物はまだまだありましたし、次回はコンプリートで挑むのも悪くはなさそうですね」


 風呂敷型のマジックバッグをレジャーシートのように広げて風の極大魔石の回収に入っているリーレイアの言葉に、努はそれを手伝いながらうんざりしたような顔をした。


「それは一旦他のPTに任せよう。新しい階層もあるんだし」
「この黒門、実は166階層に続くものだったらどうしましょうか」
「流石にないと思うけどね。神の眼も変わって一番台になってたみたいだし」
「賭けますか?」
「……なんでそんな喧嘩腰なんだよ。ソニアを見なよ。平和の象徴みたいだぞ」
「早くっ♪ 早くっ♪」


 そんな彼女を横目に努は先ほどから狂喜乱舞し可愛げのあるソニアを見つめた。今は開園直前のテーマパークに並んでいる少女のようなはしゃぎぶりであり、一緒に刻印油の回収をしているガルムとダリルは保護者のような笑みを浮かべている。

 努がいなかった三年の間にソニアも一番台に映る経験こそしていたが、未踏破の階層に自身が足を踏み入れるのは今回が初めてだった。なので彼女は普段見せない年相応の子供っぽさを見せ、努もほっこりしていた。

 だがそんなソニアにも絆されていない様子のリーレイアは、既に反省会でも開催している勢いで目を吊り上げていた。


「ツトムに獲物を横取りされましたからね。余計なお世話でしたよ」
「すみませんねー」


 そうは言うもののリーレイアは骸骨船長に多少の情があった。努から見ればそれは明らかであったので、それならば所詮は神のダンジョンのためだけに作られた高度なキャラか何かだと認識している自分が壊した方が良いと判断した。


(まぁ、悪人とはいえ何人か殺してる時点で本当に余計なお世話なのかもな)


 骸骨船長に関してはメタ的な視点がある努からすれば倒してもさして心は痛まないが、じゃあ盗賊なりオルファンの孤児なりを殺せるかと言われればほぼ不可能である。生き返る前提で戦闘不能に追い込んで間接的に殺すことも、出来れば二度とやりたくないほどだ。

 だが神のダンジョンが生まれる前から活動している探索者は、モンスターの希少な素材を狙ってきた盗賊を返り討ちにして殺すことは珍しくなかったそうだ。それにリーレイアも元々は王都騎士の出ということもあるので、罪人を処罰する経験はあったのだろう。


(迷宮都市で生涯を終えるしかねぇ……。日本でも死刑のスイッチ押す人はいたはずだけど、物理的に見せられることはないからな)


 犯罪クランが掃討された迷宮都市は近年稀に見る治安の良さを見せているが、王都へ行く通り道には未だに盗賊が存在し武力を脅しに通行料をせしめている状態である。

 もし帝都に旅行したらその道中でネズミ狩ってきたよーと言わんばかりに盗賊の首を持って帰ってくるエイミーが容易に想像できた努は、絶対に顔が引き攣る自信があったので迷宮都市に引き籠る他ない。


「次の階層なんだろなっ」


 そして手早くドロップ品の回収を終えたソニアは、溢れ出る気持ちを小躍りに乗せてリーレイアの後ろに控えていた。そんな彼女の頭にドロップ品の海賊帽子を被せて落ち着かせたリーレイアは、PTリーダーとしてその黒門に手をかけて進む。

 一瞬の暗転後。森階層を思い出させるような巨大樹が一番に飛び込んできた。それは巨大な桜の木であり、そこに続く広い並木道には風に吹かれて桃色の花弁が舞い落ちていた。


「わぁっ……!!」
(これまた随分と和風チックだな。建物もそれっぽいし)


 その桜吹雪に目を奪われて思わず走り出したソニアを眺めながら、努はその光景の中にある赤を基調とした神社のような建物に注目していた。


(……でもなんかちぐはぐだな。ゲーミング鳥居やめてくれ)


 ただ和を象徴するような鳥居が赤ではなく黄色や青など様々であることから、何処かエセ和風っぽい雰囲気もあった。それに桜の木の周りにある自然は何処かジャングルのようにも見える。


「……どういった階層ですかね。花?」
「さぁ……?」
「毒は……恐らくないな。モンスターの気配もない」


 努のように桜や神社を見慣れていないリーレイアたちは、各々そう言いながら一応モンスターを警戒して慎重に並木道を歩く。ただソニアほどではないにせよ久々の未踏破階層にはわくわくするのか、その気持ちが犬人二人の尻尾には如実に表れている。


「何はともあれ、良い景色ではあります。浮島階層突破、お疲れ様でした」
「あぁ」
「お疲れさまでしたっ」
「乙―」


 そんなPTリーダーの挨拶に各々答えつつ、努たちはソニアに走って追いつき神の眼を連れて新階層のお披露目をした。

 舞い散る桜と共に七色の鳥居を潜り、桜餅みたいなスライムを発見しそれを遠目から観察する。万が一にもロストをしないよう戦闘こそ避けたが、他にも社の中で踊っている二足歩行で獣のような見た目のコボルドなども見受けられた。


「いやー、凄いね。まさかまさかとは思ってたけど、私が未踏破階層に踏み入れられるとは思わなかったー」
「そういえば初めてですか? 良かったですね」
「ツトムー? アーミラたちが突破するまではまだこのPTのままなんでしょ? 明日も潜れる?」
「そうだから、骸骨船長次第だね。まぁアーミラたちもそこまで苦労しなさそうだけど」
「苦労しろ~苦労しろ~」


 そう聞くや否や念でも送るように手を波打たせているソニアにリーレイアはため息をつき、努はこらこら、はしゃぐなwした。


「では、今日はもう帰りましょうか。探索はまた明日にしましょう」
「うい~。今日はお酒飲んじゃおっかな~」


 リーレイアの言葉にご機嫌なまま返事して帰還の黒門へと練り歩くソニアを、ガルムとダリルが引率していく。そんな彼女に努は思いついたように提案した。


「なら明日ここでお花見でもしながら一杯やる? ついでにセーフポイントも探せそうだし」
「お花見? いいね! よくわかんないけど!!」


 お花見文化はわからなかったがとにかく飲めれば万事オッケーであるソニアは、サムズアップしながら黒門をくぐっていった。


「ツトム」


 それに続こうとしたところをリーレイアに手を止められて取り残された努は、続いて神の眼まで素っ頓狂なところに飛んで行ったところを怪訝そうな顔で見つめた。それを確認した彼女はゆっくりと頭を下げた。


「お気遣い、ありがとうございました。おかげで骸骨船長のことで気が滅入ることはなさそうです」
「えー? さっきの言動ー?」
「箱入り娘なツトムに気遣われたのは癪でしたが、正直なところ助かりました。とはいえ、あれで変な記事を書かれるのも嫌なので」
「なら良かったよ」
「……あと、ですね」


 そう礼を言った後で言い淀んだリーレイアは、もじもじとした様子で頬を赤らめている。そして意を決したように顔を上げて緑の髪を揺らした。


「また、エレメンタルフォースしてくれますか?」
「ずこー」


 そんな彼女の精霊術士らしい自白に、努はセルフでずっこけながら黒門に入って逃げた。

 コメント
  • 匿名 より: 2023/12/21(木) 9:16 PM

    更新おつ!リーレイアPTおつ!

  • 匿名 より: 2023/12/21(木) 9:23 PM

    ソニアって鼠人だったけ
    何処のテーマパークか、お判りですね?

  • 匿名 より: 2023/12/21(木) 9:37 PM

    ↑やめろー
     
    和のお宝なら刀出ないかな刀
    努用だと祓串くらいしか思い浮かばないw

  • 匿名 より: 2023/12/21(木) 9:41 PM

    最後のリーレイア何言い出すんだろうと思ったら……俺もツトムと一緒にズコーしたわw

  • 匿名 より: 2023/12/21(木) 9:50 PM

    刀使うようなジョブが無限の輪にいないなw
    ここで侍、忍者、巫女の職業アップデートくるか?

  • 匿名 より: 2023/12/21(木) 9:51 PM

    海賊帽ドブッキーの絵描きたくなったw

  • きのこの山崎 より: 2023/12/21(木) 9:52 PM

    更新感謝です♪
    納品に応じて報酬変わるってことはギスギスルートがMAX報酬もらえるんだ、分かってれば他のルートでもできそうだけど、その場合は強化ボスだろうね〜
    あと、ライダン世界にはいわゆる東の和の国的なサムシングは無いのかな?だとすると170階〜のコンセプトを理解してるのは異世界でツトムだけになるのね

  • 匿名 より: 2023/12/21(木) 9:58 PM

    エレメンタルフォースが隠語扱いされたらただでさえ高いエレフォのハードルが更に上がってしまうw

  • 匿名 より: 2023/12/21(木) 9:59 PM

    ココで作者雑記のネズミの絵を確認すると色々捗るぞ

    次回のパーティー編成はタンク職が選んで決めるのかな?

  • 匿名 より: 2023/12/21(木) 9:59 PM

    巫女のアップデートってか特定職業だと攻略かわるとかのギミックはあってもいいかもなこういうダンジョンて。
    祈るとか賽銭とかそういう普通やらない特定行動でもいいけど

  • 匿名 より: 2023/12/21(木) 10:03 PM

    見せつけエレフォえっちすぎる……

  • 匿名 より: 2023/12/21(木) 10:22 PM

    うそつきに読めた人はうそつきか嘘つかれてる

  • 匿名 より: 2023/12/21(木) 10:22 PM

    更新助かる
    ツトムなんだかんだ和風チックな階層楽しみにしてそう
    リーレイア最高だ笑

  • 匿名 より: 2023/12/21(木) 10:23 PM

    刻印油が開明墨汁に!

  • 匿名 より: 2023/12/21(木) 10:25 PM

    フェンリル付きエレメンタルフォースと神龍化アーミラを天秤にかけたらどっちに傾くんだろう

  • 匿名 より: 2023/12/21(木) 10:26 PM

    個人的神回
    リーレイアの心情が見て取れるようだった
    船長最後の場面でのせめぎ合い、その後の困惑、虚勢、からの一面桜でスッと晴れたような描写が最高です

    エレフォまではw

  • 匿名 より: 2023/12/21(木) 10:26 PM

    ゲーミング鳥居とか実際に見たら絶対笑うわw
    でももしかしたら神運営からツトムへのお礼とかの可能性あるな。チグハグなのは記憶のなかから好きそうな要素を組み合わせすぎたみたいな。

  • 匿名 より: 2023/12/21(木) 10:28 PM

    更新お疲れ様です〜

  • 匿名 より: 2023/12/21(木) 10:45 PM

    捨て大学生と化したソニア

  • 匿名 より: 2023/12/21(木) 10:48 PM

    「どうしてエレ(略)しないのよーッ!!」

  • 匿名 より: 2023/12/21(木) 10:52 PM

    この階層まで来れるのは探索者でも一部だけになるだろうし、ここでお花見するのが最前線探索者の証みたいになりそう。

  • 匿名 より: 2023/12/21(木) 10:56 PM

    ゲーミング鳥居は草
    検索したら”くぐるとラッキーカラーに変わる鳥居”とか出てきて更に草

  • 匿名 より: 2023/12/21(木) 11:02 PM

    9:50
    刀は基本両手剣だからアーミラが大太刀を使うくらいしか。鹿島神宮の韴霊剣がウルフォディア戦で使った大剣を思わせる大きさ。
    日本陸軍サーベルなら毒蛇が使いそうだが、時代がちょっと違う。
    ステフが長刀っぽいのを使ってる描写があったはず。

    努の認識だとリキ達はまだオルファンに在籍してそうだな。

  • 匿名 より: 2023/12/21(木) 11:09 PM

    箱入り娘扱いは微妙だけど、そこをわかってくれてる人じゃないと付き合えないですね。
    猫はダメですか…そうかもしれないですね(^^)
    更新感謝です♪

  • 匿名 より: 2023/12/21(木) 11:15 PM

    最後のオチここ最近の回で一番好きw

  • 匿名 より: 2023/12/21(木) 11:17 PM

    気さくなノリになってる

  • 匿名 より: 2023/12/21(木) 11:19 PM

    このあと滅茶苦茶エレフォした

  • 匿名 より: 2023/12/21(木) 11:21 PM

    リーレイアかーわよw

  • 匿名 より: 2023/12/21(木) 11:47 PM

    努も珍しくほっこりしてるし、ゆるふわ時空と化しててかわよw
    ソニアに海賊帽子被せて落ち着かせてるリーレイアが今回のハイライト。
    努ともっとエレフォしたかったら、もう努をGETするしかないぞ!頑張れリーレイアww

  • 匿名 より: 2023/12/22(金) 12:06 AM

    2023/12/21(木) 7:59 PM
    あー確かにそれなら闇か闇と風の混合とかもあり得そう!
    妖怪系なら何でも良いけど、個人的にはがしゃどくろか土蜘蛛が出て欲しい。

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