第692話 金策いろいろ
「よし、それじゃあ179階層でドロップ品集めしたら今日は帰ろうか」
「…………」
亜麻色の服を着た努が盛大に苦笑いしながら告げると、アーミラ、ガルムは沈痛な面持ちで俯き、エイミーとハンナは気まずそうに口笛を同時に吹いて思わず顔を見合わせた。
第二支部に比べてしまうと見劣りするギルドの魔方陣を利用して180階層に挑んだ努PTだったが、今回はびっくりするほど上手くいかなかった。
各将軍の武器壊しは夏と冬を選択し、後に出現する赤兎馬に二つ付与することで相対的に四季将軍の弱体化を図った。これで前回の春秋冬を吸収した四季将軍:天よりはマシになる。その前提を揃えるまでは良かった。
隕石フェーズではハンナが何個か壊しそびれたが、そのカバーはアーミラに任されていた。ただ明らかに本調子ではない彼女の反応が悪く、それを見かねた努が進化ジョブを解放し精神力を多大に消費し、エイミーもカバーすることで乗り切った。
その後に放たれる四季将軍:天の射撃をハンナは避ける気満々だったが、敢えなく射抜かれた。そしてガルムは四季将軍の剣筋を見極めるために消極的な立ち回りで凌ごうとしたが、驚くほどあっさりと首を落とされることとなった。
上腕には秋将軍:穫の薙刀、四季将軍:天の持ち腕での拳法は魔流の拳継承者のハンナが唸るほどであり、下腕には春将軍:彩が腰に差していた二振りの刀。
その中でも持ち腕の拳法による打撃と、下腕にある春将軍:彩の武器がタンクのガルムにとっては非常に厄介だった。
左手にある刀身に繊細な桜模様が彫り込まれている千代桜と名称のある刀は、その桜一つ一つが斬撃である吹雪を発生させてミキサーのように削り取る。数秒程度なら当たっても問題ないが、時間が経つごとにその回転は増してタンクであろうが風穴を開けられる。
対する右手の刀は深紅の光沢が艶めかしい紅枝垂《べにしだれ》というものであり、異様な切れ味と枝分かれするように変化する刀身が特徴的である。その刀には暗黒騎士にも似たドレイン効果があり、斬られた箇所には血を吸って育った宿り木が生える。
四季将軍:天の攻撃パターンとしては拳法で隙を作り、付与された将軍の武器で仕留めるというのがセオリーである。非常にシンプルであるそれが強力すぎる故にどうしようもなく、ガルムでも安定的にタンクをこなすことは現状難しい。
それでいて前回よりも強化された赤兎馬はVIT無視の爆発を撒き散らしつつ、その反動を冬将軍:式から受け継いだ冷気で抑えることにより長期戦にも耐え得る体を手に入れている。
そんな人馬を前に努は前回より生き延びはしたものの、タンク陣の溶け具合がどうしようもなく最後には一人残りロスト対策を済ませて全滅することとなった。
「まぁ、今はどこもタンクが戦況を保ててない。ガルム、あまり気を落とすなよ。僕も回復のやり方と装備は180階層に最適化させるから、多少は楽になる」
「……あぁ」
ギルドの神台トップ3にはアルドレットクロウとシルバービーストが映っているが、何処も四季将軍:天と赤兎馬に翻弄されている形だ。
ステファニーPTは彼女と付与術師のポルクによってその時々の状況に合わせ一人を強化するハイパーキャリー編成であるが、その支援回復を受けてもホムラは四季将軍:天を相手にするので精一杯のようである。
その間にフリーの赤兎馬に暴れ回れて全滅のパターンがほとんどなので、明日にはPT編成を変えてタンクのビットマンを入れるようだ。何ならタンク3編成にして、ウルフォディア戦で評価を上げたディニエルとステファニーを使い倒す方針も見えてきている。
対するシルバービーストのユニスPTであるが、編成としては努が考案してきたメンバーのパクりといっても差し支えない。精霊術士でエレメンタルフォースを扱う灰色の猫人、重騎士フルアーマーの熊人、パリィ騎士の竜人、そこに灰魔導士のソニアといったPT構成である。
ただその元となる人物たちでさえ180階層では歯が立たない状況なので、それらの下位互換である彼女らは戦いにすらなっていないのが現状である。特に夏将軍:烈はフルアーマーの天敵なので隕石フェーズ前で崩れることも珍しくない。
180階層では付け焼き刃が通用しないことは身を持って痛感したからか、ユニスに暴言を吐いた打倒ツトムと燃えていた彼女らは既に燃え尽き気味であった。ただそれでも火種のユニスは燻ることなく次善策を考え続け、最前線に位置はしていたソニアも支えとなっていた。
「……悪ぃな」
「明日になれば多少は切り替わるでしょ。さ、お金を稼ごう。うちは実質タダで180階層に潜れるほど甘くないんだ、経済的に」
「胸張って言えることじゃにゃいけどねー」
今日は予期せぬ母との決別もあってか精神的に不安定だったアーミラの謝罪に、努はさして責めることもなくダンジョン探索での金策に切り替えた。そんな彼にエイミーは軽く突っ込み、ガルムは働かざる者食うべからずの姿勢である。
帝階層に出現する様々な式神たちは様々な属性の魔石をドロップし、刻印油も現状では最高峰のものであり刻印士であればストックしておきたい価値のあるものである。これらは主にギルドで査定されて取引が行われ、Gとして探索者の手元に残る。
そして帝階層の宝箱からは180階層で扱いたい武具の数々が手に入るため、ギルドを通じて市場に流せば階層主に挑むクランが競って高く売れることだろう。努PTとしても自前で調達できれば中抜きされることもないので、宝箱探しは必須である。
基本的に探索者は神のダンジョン探索で得られる魔石などの物品をギルドと取引し、収益を得るのが一般的である。その他にもスポンサー契約を結んでの契約金や、新聞の取材依頼による報酬もある。
それに最近ではダンジョン外で稼ぐ手法も増えた。召喚士は大きめのモンスターを召喚し重機のように扱い工事現場では重宝される。
他にも白魔導士の医療バイトや冒険者の環境適応スキルを利用した特殊作業など、ジョブの特性を利用して外部で働き金銭を得る事例も増えていた。それに加えて刻印士を筆頭にサブジョブも台頭してきている。
「わたしですらスポンサーは大分厳選されたから、他でいくらか補填しなきゃ駄目だねー」
「ガルムは意外とそんなに減ってないってさ。一体どこで差がついたのやら……慢心、環境の違い」
「ツートームー? それでも私がスポンサー契約金、無限の輪で二位なんだからねー? どこかの誰かさんたちはゼロなんだからねー?」
「ぐぬぬ……。師匠、言われてるっすよ」
「ツトムは刻印士でどうにでも出来んだろ。てめぇもサブジョブいくらか手を出してるみてぇだし、どうにでも出来そうだが」
アーミラからの援護にエイミーはふふーんと顔を逸らした。
「まぁね! お金のことはエイミーちゃんに任せなさい!」
「理想の部下じゃん。ありがとね」
「賃上げは脳ヒールでいいよ! 丹念にね!」
「……ちんあげ?」
聞き慣れない卑猥そうな言葉に首を傾げているハンナを横目に、アーミラは素知らぬ顔をしているガルムに絡んだ。
「ならガルムはドーレンにでも弟子入りかぁ? スポンサーに尻尾振るだけのタマじゃねぇだろ」
「案外、性には合っているかもな。鍛冶師も」
「だろ?」
「なら貴様は竜人にない尾を振ることだな。龍化結びでもしてやったらどうだ?」
「……神竜人目当てでスポンサーしてた奴らも消えたしなァ。ちっとは身売りしてやるか」
相性の良い竜人に限定した龍化結びとそれに使った鱗の譲渡でも付ければ、そのサービスは飛ぶように売れるだろう。なんなら首の鱗を一枚剥いでやるだけで強力なお守りにもなる。
「あたしも師匠の一番弟子っす! 刻印士の!」
「レベル2ね」
「……今からでも間に合うっすかね」
「無理だね。お前はとにかくダンジョン探索だ」
「うそっす。なんか美味い話があるはずっす」
「そんなものがないことは数億詐欺られてもう理解しただろ?」
なので努たちも帝階層の探索で稼ぐ王道路線は継続しつつ、スポンサー契約の減った者たち含めて各々金策の模索もすることになった。
psスキルでゴリ押そうとするステフディニに対して誰でも倒せる攻略を目指すツトム
ギミックまだ解析し切れてないし175層も中途半端関係漂うしまだ始まったばかり