第760話 ぴちぴち
「で? 選考の意図はなんなの?」
ドラフトピックを終えて各PTが部屋を分かれて探索準備を始める中、ディニエルは真っ先に努へと問うた。心なしか普段のたれ目も鋭く見える彼女に、努は装備品の刻印に問題がないか確認しながら答える。
「まず、僕は今回ハンナとは絶対に組みたくなかった。介護はもううんざりだったからね。だからタンクを真っ先にピックした」
「だそうですよ?」
「それでもダリル君ではなく選ばれたのはこの私! ゼノであぁぁぁーるっ!!」
リーレイアの皮肉も真っ向からの巻き舌で跳ね返すゼノを前に、ダリルが眩しそうに目を細めている。そんな三人に一瞥もくれずにこちらを見ているディニエルを前に、努は視線を合わせない。怖いので。
「第二巡はダリルかガルムピックは確定で、残りをどうするかはPTバランスを考えてだね。機械階層は雷属性が有効っぽいし、ハンナがいない分その属性を扱えるアタッカーが欲しかった。それに僕は雷鳥と相性も良いからリーレイアをピックした」
「それなら私も属性矢を使える。雷の属性矢は貴重な方だけど、以前と比べればそのコストは大幅に抑えられている。三年前とはもう違うけど」
確かに弓術士は属性矢を自前で用意する必要こそあるが、百階層以降の神のダンジョンで魔石を調達できる幅も増えたのでその値段は比較的抑えられるようになった。そんな属性矢事情を説明したディニエルに、リーレイアは薄い笑みを張り付けて補足する。
「しかし雷鳥との精霊契約であればそもそもそのコストすらかかりません。ツトムが私を選んだのは妥当性がありますよ」
「……貴女が、私より優先されるアタッカーだとでも思ってるの?」
「貴女こそ、もしや三年前の認識で時が止まっているのでは? それに直近の180階層で競り負けたのにまだ過去の栄光をひけらかすその態度。みっともないですよ、老害おばさん?」
「おい、やめとけ」
そんなリーレイアの爆弾発言には流石の努もピシリと表情を固めて止め、ダリルは下唇を軽く噛みながら装備の点検により一層身を入れた。そんな中ディニエルはまだ二十歳もそこそこである竜人の餓鬼に白けた視線を返す。
「……はぁ。じゃあこれから十年後。30歳になって顔にしわを刻んだ頃にその言葉を改めて返してあげる」
「随分と長居をする予定のようですね? エルフらしくない」
「貴女たちが全盛期を過ぎた頃には旅立っているかもしれないけど、その一言を言うために帰ってくるよ」
「健気なものです。ねぇツトム?」
「……先が思いやられるね」
何なら女性陣が四人固まっているコリナPTよりもキャットファイトが激しい様を前に、努は鼻頭をつまんでほぐした。
「それとさっきのやめとけ、はなに? 私が老害おばさんと言われたことがそんなに不味いことだとツトムは認識していたということ?」
「もういいって」
「んふふふっ、ツトムがあそこまで焦るのは珍しいですからね。余程核心をついた発言なのだと思ったからでは?」
「やーめーてー」
クランリーダーがエルフと竜人に詰められている中、タンク陣は触らぬ神に祟りなしといった具合である。
「それにコリナからも随分と嫌われたようで。あそこでディニエルがピックされなかったのはツトムとしても予想外だったでしょう? 恐らく当初の予測ではディニエルではなくエイミーだったでしょうし」
「そうなの?」
「……じゃなきゃ単純に前のPTからヒーラーだけ入れ替えただけになるしね。今頃あっちはPTメンバーに新鮮みがないと嘆いてるかな」
「良かったですね。こちらは鮮度抜群ですよ?」
「こんな鮮度いらないよ」
「ぴちぴち」
まさかエイミーが恋しくなるとは思わなかった努はそうぼやきつつ、刻印が正常に作動していることを確認し終わりようやくディニエルと視線を合わせる。ただ彼女はその口調とは裏腹に表情筋が死んでいた。
「ぴちぴち」
「エルフの価値観からすればまだ成人間近であることは理解してるよ。ルークからも散々念を押されてるし」
「わかればいい」
まるで色気を感じないぴちぴちモーションも止めたディニエルは矢の確認に戻った。正確無比な射撃のためには矢に欠陥がないかの確認は欠かせない。
「ぴちぴちのエルフに現《うつつ》を抜かすのも構いませんが、後ほどクロアにもフォローは入れておいて下さいね。もう用済みですかと冗談半分ではありますが嘆いていたので」
「確かにね。そろそろ無限の輪も3PT目も着手する時期かな……」
「であればソニアは来そうですね。ユニスも来ますか?」
「そうなると女性比率がなぁ……。せめて七対八くらいの比率には抑えたい。ガルムも肩身狭そうだし」
「男の候補いるの?」
「……いないんだよなぁ。シルバービーストにも見当たらないし」
無限の輪に入る候補としてはアタッカーが槌士のクロア、灰魔導士のソニア。ヒーラーはユニスといったところだが、それ以外に目ぼしい探索者は見当たらない。
「それにそうポンポンと引き抜くのもアレだし、今から調整して機械階層終わる頃にはなるかな。それまでに男のタンク二人か……。まぁ役割的にしょうがないんだけど、タンクが男に固まるのもなぁ。ヒーラーとは言わずともアタッカーに数人は欲しいところだね。今のところ全員女性じゃない?」
「女性は男ほど変な意地を張らないですからね。大抵のタンク職は不遇の時代に見切りをつけて引退していますし、わざわざ血生臭いことをせずともいいので」
「でも僕が引退してた時に多少は増えたじゃん? アタッカーはもう飽和してるんだよな」
「無限の輪が異様でもある。アルドレットクロウはアタッカーも男が多かった。血の気が多い武闘派の集まり」
「そうだね……。しかしツトム君のお眼鏡に合う人材となると中々……」
「今となっては無限の輪に憧れてきちゃう人も多いですし、難しいですよね」
今後の無限の輪について雑談しつつ探索の準備を終えた努たちは、オーリに見送られてクランハウスを出た。
「このPT編成だと遠距離攻撃が多いから、タンクの負担は割と高めだね。特にダリルは一旦そのことを念頭に置いといて。ヒーラーが前線も担える祈祷師じゃないし、アタッカーも基本は遠距離だからね」
「了解です」
「実際にやってみて前線の枚数が足らなそうならリーレイアを前に出してみよう。あとは僕とゼノの連携も一度は試してみたい」
「私が前に出るということは、エレメンタルフォースも期待はできますね」
「いざとなったらね。もう介護は懲り懲りなんで」
ほとほと愛想が尽きたといった様子の努に、リーレイアは意外そうに眉を上げる。
「そこまで言うのも珍しいですね。ツトムなら介護してこそヒーラーとでも言いそうなものですが」
「それにも限度はあるよ。前にも言ったけど、それに回す分で僕がパフォーマンス出せるんだよ。今回のPTはそうならないように組んだから」
「私ならツトムがパフォーマンスを出せることを理解しつつ……あれですよ、バリュー、出せますよ?」
「かもね」
これでもかと自分をプレゼンしてくるリーレイアを努は微笑ましげな顔で見下ろしつつ、精霊奴隷は嫌なのでめちゃくちゃ反論した。
この清濁併せた空気がライダンよなあ