第761話 姦し姦し
努たちPTがギスギスしていた時、コリナPTもまた装備の点検を行いながら打ち合わせを行っていた。そのいの一番でコリナはPTメンバーたちに頭を下げた。
「すみません……最後の選択は私情を挟みました」
「だよねぇー? 最後はぜったいディニちゃんピックが丸いでしょ。おかげでヒーラー以外移り変わりのないPTになっちゃったよ!」
「そもそもゼノを初めに取られるとは思ってもなくてぇ……頭真っ白になっちゃいました」
ガルム、ハンナ、アーミラ、エイミーは前のPTと変わらずであるため、新鮮味の欠片もない。コリナとしてもハンナとディニエルを取るのが丸い選択肢であることはわかっていたが、以前に彼女が魔流の拳を戦略的に使わせたことが懸念点であった。
「まーあれはツトムも意地悪だったよねー。ピックも明確な意図を感じるし、ね」
「露骨だったなァ」
意味深なエイミーの呟きに、アーミラも不敵な笑みを浮かべる。
女性陣はファーストピックがゼノであったことからその意図を察しており、ハンナはようやく努の厳しい魔石管理から解放されたことにむふふ顔で属性魔石を選別している。ガルムはゼノが選ばれたことに若干肩を落としてはいたが、仕方のないことだと今は割り切っていた。
「そっちのPTで180階層の宝箱開けたのはダリルとクロアなんだよね? なに出たの?」
「ダリルは冬将軍:式の鎧で、クロアは春将軍:彩の扇子でしたねぇ」
「マジかよ。シルバービーストへのお膳立てか?」
まだ周回の目途も立っていない180階層の貴重な宝箱。その権利をシルバービーストに在籍しているクロアに預けることを、PT内の話し合いで決めていたコリナはこくりと頷く。
「それは、その。シルバービーストには皆さんがいない間も支えてもらっていたので……」
「そういえばこのPTだと裏切り者はアーミラだけだね」
「裏切り者―っ。裏切り者っす!」
「おいこらコリナごら」
「う、裏切り者が叩いてきますぅ……」
「うぜぇ……」
アーミラに肩を掴まれてぷるぷる震えながらも言うことは言うコリナを前に、彼女はそうぼやきながら手を離す。
「服の上からでもパンパンだな肩が。熊でも触ってんのかと思ったぜ」
「…………」
「うわーデリカシーないんだー」
「てめーも俺の赤鱗がうんぬん言ってくんだろ。普通の竜人にそれは御法度なんだが?」
「神龍人だしいーじゃん」
「それならあたしの胸をどうこう言うのもあれっすよ」
「うるせー鳩胸が」
「はぁーーー!? あたしは鱗のことなんか一度も言ったことないのにっーーー」
「…………」
そう言って女子校じみたじゃれ合いが始まった中、ガルムはその光景を見ないよう身体ごと後ろを向き装備の点検に無心した。
180階層戦でガルムが着ていた鎧は壊れてしまったので、今は予備の物を使っている。ただ刻印を用いれば大抵の装備は最新のものより一段劣る程度の性能で収まってくれるので、装備の幅はかなり広がった。
それこそマジックバッグの底で忘れ去られていた装備でも機械階層で十分運用できるため、孤児たちに行う訓練も装備の調達がしやすくなった。最近は迷宮マニアを筆頭に刻印士の数も増えてきたので、依頼先にも困らない。
(ただ……蠅の王周りにもこれが普及するとなれば、対策は考えねばな)
最近努がミナを通じて手を貸すようになった蠅の王。その境遇は酷い環境で育つ他なかった孤児のようなものなので同情の念こそあるが、ガルムからすれば言葉が通じぬ化け物という側面も強い。
今は大した装備もしていないので仮に敵対行動を取られたとしても鎮圧できる自信はあるが、刻印装備を手にしたとなれば話は別だ。
(……救いたい気持ちこそ、わかるのだがな)
それも努がリスクを承知で手を差し伸べたのはガルムからすれば非常に結構なことだ。孤児院育ちのガルムとしてもその行動には賛同できるし、それは彼がこの地に骨を埋める覚悟の表れでもある。それ自体は安心材料だが、しかし蠅の王はリスクであることも事実。
そのリスクは自分が護衛することで減らす。それにガルムはその気持ちをコリナやリーレイアとも既に共有しており、少なくとも武力で彼を窮地に陥らせないことを徹底していた。
(蠅の王を連れた迷宮都市の探索はバーベンベルク家も付くとはいえ、スタンピードの前例もある。気を引き締めねば)
「にしても無限の輪のユニークスキル持ちがこっちに固まったね。ハンナちゃんも実質そうだし」
「それは結構なこったが、遠距離がどっちもいねぇのは問題だな。属性攻撃はハンナに任せるにしても、バランスが悪ぃ」
「雷魔石でどーん! っすよ!」
「その分、前線の数は過去一番ですよぉ。全員張れるんじゃないですかぁ?」
「祈祷師の中でもてめーは頭一つ抜けてるしな」
「その強みを活かす他ないだろうな。幸い機械階層において打撃は有効ではありそうだ」
そしてようやくPTの輪に戻ることのできたガルムは、そう補足しながら打ち合わせを進めていった。
――▽▽――
シルバービーストに春将軍:彩のドロップ品である大きな扇子を持ち帰り、子供たちから大人気であった犬人のクロア。
元気の有り余っている子供たちに付き合った彼女は黄土色の垂れ耳を更にへたらせ、クランハウス内にあるドミトリーに帰る。すると二段ベッドの上から鼠人《ねずみびと》のソニアがにゅっと顔を出した。
「ついに私たちも無限の輪からお役御免ってわけか……」
「ソニア、不吉なこと言わないでくださいよ」
「手切れ金代わりみたいなもんでしょ、それ。181階層からはシルバービーストに対する募集もなくなったし」
「違いますって」
精神力を込めて振ることで桜吹雪を散らすことの出来るその大扇子で子供たちを喜ばせていたクロアは、その言葉を否定しながらベッドに座り込む。
「機械階層が終わる頃には三軍も募集するみたいですよ。それこそソニアは第一候補でしょう?」
「いやーどうだろうねー。それもまだ絶対ってわけじゃないじゃん? 期待して落とされるのが一番辛いからねー」
「実際無限の輪も人手不足みたいなものですし、三軍枠作ると思いますけどね。部屋もまだ余ってますし、元々貴族の建物みたいですから増築も可能ですし」
「へぇー。ふぅーん」
シルバービーストに身を置く前の過去、一度決まった養子縁組を理不尽に取り消された経験のあるソニアは期待しないよう心に防壁を張っていた。ただそれでも無限の輪に入りたい気持ちはあるのかバネ状の尻尾は弾んでいた。
そんなはやる気持ちから目を逸らすようにソニアは大きい耳を膨らませ、隣のベッドで刻印している狐人に話を振った。
「ユニスも入る気なんでしょ?」
「いや、私は様子見なのです」
「へ? なんで?」
「……無限の輪、クラン内恋愛禁止みたいなのです」
視線を逸らしながらそう答えたユニスを前に、二人は顔を見合わせた後のっしのっしと彼女のベッドに上がり込んだ。
「脳ヒールの回数券使って忍び寄る作戦はどうなのさっ」
「その進捗は是非聞きたいですねぇ~」
「狭いのですぅ!! こっち来んじゃねぇですよ!!」
それからセミダブルほどの大きさがあるベッドに女三人でぎゅうぎゅう詰めになりながら、ユニスの恋愛相談が幕を開けた。
カムラは実力はともかく性格の小物っぷりが難がありすぎるが、無限の輪は毒舌に慣れてるからいけるか
ホムラが移籍したがってるからついてくる可能性はある
アルドレは所属人数が多くなりすぎた上に、クランリーダーがアレだからか、ディニエルの移籍を許したのなら他もいけるだろ
ユニスとクロアがシルビにいるのは、無限の輪が元メンバーが揃うまでは追加募集はしないという方針だったためにやむを得ずの側面が強かったし、シルビ自体孤児院の運営補助のために神のダンジョンを攻略してる、というスタンスゆえに、メンバーの追加移籍も含め色々自由だと思われる。メンバーの装備代の管理すらできてないしな
募集は機械階層終わりを予定してるようだが、現メンバーのPT は決まったし、機械階層攻略し始めの今が募集しどきでは?終り頃だと募集に応じるには、それまでのPTを抜けなきゃならなくなる