第763話 過労死しちゃーう
(ダリルが過労死しちゃーう)
現状のPTで無難に181階層での連戦を行った後、努が思った所感はそんなところだった。今回の連戦でメインタンクを務めたフルアーマー装備のダリルは兜を脱ぐと汗びっしょりであり、努が設置したエリアヒールとメディックルーム内で息を切らして膝をついている。
モンスターのヘイトを受け持って耐えるのがタンクの基本的な仕事ではあるが、前線の枚数が多いほどその負担は軽くなる。しかし現状のPTはアタッカーがどちらも遠距離を主体とし、ヒーラーも近接戦は大の苦手である。
「前線不足感は否めないね」
「もう少し火力に振ることも可能」
「雑魚戦なら遠距離から一方的に削れるけど、問題は戦闘時間が長くなる中ボスあたりだね。それに射線を遮らないよう気も遣うだろうし、こういう連戦の場合も前線がもう一枚あるだけで楽になりそう」
「コリナ君に甘えていた部分は大いにあるね……」
ダリルのカバーに入りその銀髪を汗で濡らしているゼノも思わずぼやく。
遠距離アタッカーの射線に入らないようタンクは位置取りに気を遣うが、それもディニエルの矢とリーレイアの精霊スキル二つが絡むのでより難しい。結果としてタンク陣は普段よりも消耗が激しかった。
まだモンスターが手緩い181階層であることと、努の支援回復により致命傷こそ負っていないが以前のPTよりしんどいことに変わりはない。以前は祈禱師のコリナに槌士のクロアと優秀な前線が揃っていたので、ここまで多くのモンスターのヘイトを一斉に担うことはなかった。
ということは? つまり? といった表情が微かににじみ出ているリーレイアがすすっと寄ってくる中、努はぶっきらぼうに言った。
「フェンリルよろしく」
「……契約――フェンリル」
手っ取り早いのは単純に前線の枚数を増やすことだ。基本的に白魔導士はMND《精神力》を一段階上げられるウンディーネと組むのが基本だが、フェンリル、レヴァンテなどは前線としても優秀である。
まずはフェンリルと契約した努は顕現した氷狼に騎乗用の装備を付ける。冬の散歩でお洋服を着せられる飼い犬のように待っているフェンリルは、時折努を舐めて毛繕いしていた。
「程よく掻き乱してくれ。振り落とすなよ?」
『バウッ』
氷狼姫よろしくフェンリルに騎乗した努は、少し久しぶりなこともあり加減を頼んだ。
それから城の外周を走っているブロンズギアの群れを相手取ったが、フェンリルが前線に入り掻き乱すことで先ほどよりはタンク陣の負担は減った。
その体に氷の鎧を纏わせたフェンリルは体当たりや頭突きで歯車型のモンスターを粉砕していく。氷鎧の生成は契約主であるリーレイアの精神力を使用するが、精霊スキルを使わなければ消費量は多くない。
(AA《オートアタック》様様だな)
スキルを使わない単純な攻撃であるが『ライブダンジョン!』と違いそれには大幅な技術介入が可能である。こちらを轢き潰さんと迫る歯車の群れをフェンリルは軽やかなステップで躱し、横合いから先端を氷で固めた尻尾を叩きつける。
さながらコリナの扱うフレイルの如く遠心力を用いたその打撃で、ブロンズギアの歯車がひしゃげて吹き飛ぶ。その背後から地面を削りながら迫るモンスターたちは、努の背後から放たれた矢と魔法スキルにより乱れ撃ちにされた。
(正気の沙汰じゃねぇや)
ただ銃弾の如く放たれるディニエルの矢が背後から撃たれる感覚には努の肝が冷えっぱなしだった。ディニエルが誤射をしたことはほとんどないのだろうが、それでも怖いものは怖いので努はブロンズギアとの戦闘が終わって早々フェンリルから降りた。
「よし、今度は僕のことを気にせず暴れてこい」
『…………』
そんな努の物言いに何処か冷めた視線をくれたフェンリルはすんっと鼻を鳴らした。そして騎乗具を外した氷狼はその野生じみた身体能力を思う存分発揮した。
それを後方から見守りつつ支援回復を飛ばす努の横に、サラマンダーとシルフと契約しているリーレイアが付く。
「何故あんな態度を取っておいて精霊に好かれているのか理解ができませんね」
「相性の値とは残酷なものだよ。四大精霊と相性の悪い精霊術士もリーレイアにそう思ってるだろうさ」
「普通は下がるんですがね、あんな態度を取れば。それこそ雷鳥にあんな暴言を吐けば一発で契約打ち切りですよ? 何で消し炭になってないんですか?」
「狙うべき相手もわからない馬鹿に馬鹿と言って何が悪いんだか」
そんな努の雷鳥に対する物言いに胸でもすく思いなのか、サラマンダーはゆっくりと頷きシルフは楽しそうにくるくる回っている。その狼耳で声を聞いていたフェンリルも更に動きの勢いを増した。
「……それで本当に雷鳥の契約切れたらどうするんですか? ここでは雷属性が有利だから私をピックした側面もありますよね?」
「そこはサボり癖もなくしたエルフ大先生がいるし、何とかなりそうだね。属性矢でお金は飛ぶけど」
雑談することもなく無心で弓矢を手に戦場を駆けてブロンズギアを殲滅して回っているディニエル。その動きは以前のようなダラけがなく弓術士としての火力を大いに出していた。そんな彼女を遠目にリーレイアはため息を吐く。
「寿命が何倍もあるエルフからサボり癖をなくしたら、どうやって人は追いつけるんですか?」
「そこで釣り合い取ってるところもあっただろうし、どうなるんだろうね。よかった、弓術士じゃなくて。ヒール、メディック」
「あれに火を点けた貴方を恨むアタッカーは数知れないでしょうね。サラマンダーブレス」
そう雑談しながら支援回復する努に合わせ、リーレイアもサラマンダーから放たれる熱線を駆使してブロンズギアを仕留めていく。
「しかしフェンリルだけでもいいですが、レヴァンテも扱えるバリエーションは羨ましいです。これにいつかアスモも加わるとなればもはや伝説の精霊術士ですよ」
「次はリーレイアがサラマンダーとかノームにも前線張らせてみれば? 別にそれも悪くはないでしょ」
百階層を越えてからは四大精霊も強化はされており、サラマンダーはより巨大化した火蜥蜴として前線を張ることはできる。ノームも以前より土人形の規模と制御が上がり、ちょっとしたゴーレムを作ってタンクにも似た役割を果たせる。
「努のフェンリルやレヴァンテのバリューと比べると微妙なところです。これは私利私欲ではなく、本当にエレメンタルフォースでも使わなければ怪しいところです」
「精霊スキル使わなければ契約主の精神力もあまり消費しないし、実質召喚士みたいに数を増やせるのは強いよなー。これでレヴァンテも呼び出せたら最強だったのに」
「流石に新たな精霊たちは四大精霊と比べれば消費する精神力は大きいですからね。ただ、一つだけであれば私がシルフを扱いつつサラマンダーかノームを前線に上げることも可能ではあります」
「基本はそれでいきつつ、たまにはエレメンタルフォースでガス抜きはしてあげるよ」
「…………しゃっ」
「どういう言葉なのそれ?」
思わず零れたリーレイアの歓喜に努が突っ込んでいる内に、ブロンズギアの群れは掃討された。
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