第766話 隠し地図
『骨折り損のくたびれ儲けにならねぇといいなぁ!』
「…………」
翌日はリーレイアの要望もあり、努PTは息抜きも兼ねて浮島階層に潜り直していた。飛行船の先頭に復活していた骸骨船長の船内放送をリーレイアは無視したまま、甲板下に描かれている星座を模写していた。
祭壇への隠し地図を手に入れるにはまず飛行船内部に描かれているランダムな星座を見つけ、それに対応した魔石をドロップさせる必要がある。そのためには浮島階層の何処かにいる特殊な水晶体のモンスターを倒さねばならない。
ただそれらの位置はほぼ固定であり、既に精霊術士たちによって検証され情報は出揃っている。今回は161階層、164階層、167階層の浮島にある特定の場所でその水晶体を狩れば確定でドロップする。
その情報をお手製のメモを片手に割り出していたリーレイアを横目に、ディニエルは眠気眼で尋ねた。
「寝てていい?」
「……まぁいいよ。ただこの次のフェーズは手伝ってね」
「ん」
アルドレットクロウでの強行軍がここに来て響いているのか、ディニエルはここ最近それはもうよく寝ている。敵だった時の疲れを味方になった時に癒すんじゃねぇぞとは思いつつ、かといって寝るなとも言えないので努は船室のベッドに転がり込んだディニエルを見送った。
そんなエルフを見送ったゼノも辛そうに鼻頭を揉む。
「……私も昨日ベイビーが大暴れで寝不足なのだが」
「体調管理も出来ない二流の証明をしたいのですか?」
「…………」
ゼノに続いて何なら自分もちょっと昨日は寝不足でと言い出しかけていたダリルは、緑蛇の睨みで口を噤んだ。そんな男性陣の肩に努は手を置いて緑色の気を頭にまで這わせる。
「ま、二人はこれで我慢してくれ」
「おぉ……。確かにすっきりはするが寿命の前借りをしていないか心配だよ」
「ですね……。というか脳ヒール、もう頭触らなくてもよくなったんですか?」
「野郎の頭なんて誰も触りたくないからね。効果は薄まってるけど作用はしてるでしょ?」
「でもガルムさんに脳ヒールする時はちゃっかり犬耳も触ってましたよね……」
「やだなーちゃんとした脳ヒールをするためじゃないですかー」
努がそんな言い訳をしている最中、リーレイアは後ろ向きのままでずいずいと彼の前にやってきた。
「お陰で私も寝不足なので、脳ヒールをお願いします」
「…………」
隣にいるダリルの「えっ」とした表情に努は冤罪ですと首を振った後、リーレイアの緑髪に指を通した。そして回復スキルの名を詠唱し指先に緑の光を込め、脳の疲労を清め払う処置を行う。
脳みそをぎゅーっとされて疲労物質が搾り取られていく。その処置で首をうつらうつらとさせて目をとろーんとさせていたリーレイアは、努の手が頭から離されると意識をハッとさせた。
昨日夜なべで情報を調べ上げて数時間しか寝ていないにもかかわらず、この僅かな時間で自身を律することもなく目がしゃっきりとしている。
「……ツトムのPTは脳ヒールで帝階層の強行軍を図ったと聞いていましたが、これで副作用もなしとはにわかに信じられませんね。」
「絶対に安全とは言えないけど、アルドレットクロウよりは長持ちしてるかな」
「アレに関しては私も何度か受けた経験がありますが、こう……心臓が締め付けられるような違和感はありました。ですがこれにはそれがありません。ディニエルにもやってきてあげたらどうですか?」
「エルフは脳ヒールアンチだからね。実際これで寿命減るなら長寿の人ほど怖いだろうし」
「それなら神竜人のアーミラも怖がっていそうなものですがね」
人や竜人より寿命が長い傾向にある種族を槍玉に上げたリーレイアは、ふるふると頭を振って髪型を整える。そして飛行船が浮島階層に入るとすぐにフライで所定の位置へと向かった。
その水晶体がいる場所はメモ書きに記しつつ場所も神台で見ていたので、それはすぐに見つかりリーレイアに瞬殺される。そしてドロップした星座が入った魔石をマジックバッグに仕舞い、その調子で164階層、167階層でも同様に狩っていく。
「契約――アスモ」
それらの魔石を呼び出した光精霊に献上すると、白い繭から光を帯びた糸がゆらゆらと飛び出て方向を指し示す。ただその糸にはモンスターも吸い寄せられるためアスモを守りながら進行する必要がある。
「準備運動」
船室から寝ぐせ混じりで起きてきたディニエルはそのアスモ防衛のフェーズには参加し、チャンピョンベルトを巻いた歴戦のカンフガルーたちを捌いていく。
「コンバットクライ」
氷鎧を着て冬将軍:式とデザインが似ている鬼面を被っているダリルは、自身の身長よりも大きいタワーシールド二枚でカンフガルーを迎え撃つ。それらの攻撃を防ぐ度に刻まれた専用刻印が発動し、氷結のデバフをばら撒きモンスターの動きを阻害する。
「アンチテーゼ。ヒール」
アスモの糸を守る現状においては火力を出す判断をした努は進化ジョブに切り替え、効果が反転した回復スキルを当て続ける。さして攻撃されている気配がないにもかかわらず、カンフガルーたちは不意に足が動かなくなりそのまま眠るように死へと誘われた。
「サラマンダーブレス」
ダリルに氷結を何度も付与され単純な寒さで動きが鈍っていたカンフガルーたちを、巨大化したサラマンダーが纏めて焼き払っていく。その中から異様な耐久力を持つミミックだけは無事に飛び跳ねてきたが、ディニエルの放ったポイズンアローに撃ち抜かれた途端に舌を出して光の粒子となっていく。
「エクスヒーーール!!」
三回使った途端に進化条件がキツくなる聖騎士であるが、階層を切り替えればそれはリセットされる。そのためゼノは攻撃が集中していたダリルに対して過剰なほどの回復スキルを用い、彼の耐久力を底上げしていた。
(氷葬エクスヒールが強すぎるぅ~)
ヘイトを取りながらもデバフを振り撒ける専用刻印に加え、安易な全回復もあればダリルが死ぬことは早々ない。そして度重なる氷結のデバフでモンスターの動きが鈍ったところで遠距離のディニエルとリーレイアがスキルで纏めて薙ぎ払う、
光精霊に釣られたモンスターはことごとく撃ち落とされ、ドロップした魔石と刻印油は努が契約したウンディーネがその粘体を用いて回収していく。浮島階層は宝箱のドロップ率もいいので銅や銀のそれらもごろごろ転がっているが、いちいち開けてもいられないのでスルーして進む。
そしてアスモの繭から飛び出ていた糸はついに終着点へと到着し、大樹の根に下ろされた。するとその地中が発光して根がボロボロと崩れ出し、結界が解かれた先には金の宝箱が鎮座していた。
その宝箱をリーレイアはちゃっちゃと開けて、薄く引き伸ばされた水晶のような質感の地図を取り出して皆に見せる。
「これが隠し地図ですね」
「おー」
「星座が鬼門だったね。初めの人はよく見つけたよこれ」
「精霊術士の執着は魚人の深海にも負けませんから。さっ、早く飛行船に帰りますよ」
リーレイアはそう言うや否やフライで上空に飛んで飛行船の位置を見極めると全速力で飛んでいく。そんな彼女にゼノは神の眼目線で苦笑いを浮かべた後、やれやれといった様子で追いかける努たちに続いた。
『おうおう良い地図持ってんじゃねぇか姐さんよぉ! ならここに行っちゃうぜぇ!?』
「全速前進でお願いします」
『了解!!』
そして努たちが追いつく頃には既に飛行船は出発準備を完了して動き出していた。それに努は舌打ちを漏らしながらダリルに振り向く。
「ロストしたら洒落にならん。今からでも間に合うとは思うけど、万が一無理そうなら浮島残って鎧マジックバッグに仕舞ってくれ」
「了解です。いざという時はそれで身投げしますね」
「悪いね。精霊のことになるとポンコツになる呪いでもかかってんのかアイツ」
もし次の階層へと移動中の飛行船から落ちてしまえばフライで浮かぼうと死亡判定となり、最も価値が高い物以外はロストしてしまう。特に冬将軍:式の氷鎧を着込んでいるダリルが落ちればこのPTの致命傷になり得るので、努は早々に告げて彼を真っ先に船内へと避難させた。
幸いにも船内への避難は迅速に済んだので、努にとって最悪の手段を取らずに済んだ。原生生物の巣食う星に取り残された憐れな一匹にでもなった気分で飛び降り自殺など真っ平ごめんであり。それを誰かに味合わせるのも同様である。
そして最後に飛行船が揺れる中で船内に滑り込んできたリーレイアを扉の前で出迎えた努は、扉を閉めて安全を確保した後に興奮冷めやらぬ彼女に冷や水の視線を浴びせる。
「これ、もしダリルが船内に乗り遅れてたらロストしてるよ? 何でわざわざそんなリスクを冒させたんだ?」
「……あっ」
そう言われてようやく飛行船の仕様に思い至ったリーレイアの顔がさーっと青くなる。
「二流が」
「す、すみませんでした……」
そんな努の吐き捨てにリーレイアは肩を縮こませて頭を下げ、続いてPTメンバーにも謝罪して回った。ゼノとダリルはそんな日もあるとフォローし、ディニエルはあーあと言わんばかりに口を開いていた。
更新ありがとうございます!
No脳ヒールNoLIFE!な人がまた増えてしまった…
次の努の脳ヒールの被害者は誰になるのか!?
次回も楽しみに待ってます!