第773話 弟子集結
それからジョブのバリエーションが多いアルドレットクロウが主導した事前策の準備も進みつつ、斥候の予測通り迷宮都市にスタンピードが襲来した。
「でたらめな大きさのモンスターですが、見て下さい! バーベンベルク家が指揮を執り迎撃の準備は着々と進められています!」
動画機の前でそう解説しながらマウントバグとそれに備えている探索者や警備団を映し出しているのは、普段から神台報道に出演しているギルド職員たちである。
複数の動画機を回しては一番台へと適宜繋げにいくことでタイムラグを極力なくしてスタンピードを報道し、それを観衆に見せることでバーベンベルク家の威信を広めると共に現場へ来る野次馬の数を減らす試みである。
ただそれを切っ掛けにむしろ来るような輩もいるため、それらは警備団が人死にを出さないよう徹底的に追い返していた。
その報道陣と警備団よりも先、マウントバグ周辺に付いてきていた虫型モンスターはミナと蠅の王によって誘導されていた。それを各クランのタンク陣と祈禱師たちが捌くことで周辺の制空権確保に尽力している。
(本来であれば僕が支援回復したかったんだけどなー)
今頃コリナの支援下で戦っているガルムたちの光景を想像しつつ、迷宮都市の城壁上に集合した努は改めてその目標を見据える。
「デカすぎだろ」
世界最大規模の豪華客船にも引けを取らない大きさを誇るマウントバグは、うじゃうじゃとした節足を波打たせ地面を滑るように移動してきていた。それが近づいてくるにつれて人生初を更新する巨大さであることは嫌でも理解させられる。
「女王の指示があれにも通れば一番良かったのですけれど、そう上手くはいきませんわね?」
努と同じくアンチテーゼ部隊に配属されているアルドレットクロウのステファニーは、そう言って努の隣に並び立ちにこりと笑いかけた。するとその反対側からふんと鼻が鳴らされた。
「神台報道がなければ探索者だけで殲滅するのもわけなさそうなのです。大体はミナが散らしてタンクが引き受けられたのですし、茶番もいいところなのです」
覇桜の薙刀でつかつかと床をつきながら歩いてきたユニスはそう口にしつつ、秋将軍:穫の薙刀を手にしているステファニーをねめつけた。
「専用刻印も付与できてないのにそれを持つ意味あるですか?」
「あら。それなら今ここで付与していただいても構いませんことよ? 刻印士のユニスさん?」
「大金積まれても御免なのですよ」
そんな二人のキャットファイトが始まる最中、努は白魔導士の集団の中で見覚えのある白い兎耳が突き出ているのを見てそこに歩み寄る。その正体はシルバービーストの白魔導士たちを取り纏めていたロレーナだった。
「おっ! 無限の輪ただ一人の白魔導士が! 今ここに!」
「それなら紅魔団のセシリアさんもそうでしょ。にしてもシルバービーストは多いね」
「数だけならアルドレットクロウにも引けを取りませんからね! レベルは低いけど!」
ドヤ顔でそうのたまうロレーナを前に周囲の者たちも苦笑いを零している。年齢層はシルバービーストにしては高いものの、まだ十代の者たちも数多く配置されていた。ただそれらは全員間引きの参加義務がある百階層以降の探索者であり、アンチテーゼを扱えるレベル帯ではあった。
「しっかしこうも白魔導士が集まる機会なんて早々ありませんし、何だかお祭りみたいですねー。あ! それにアンチテーゼ部隊もツトムが発案したって聞きましたよ?」
「白魔導士なら誰でも思いつくだろうけどね」
「あの場に代表として呼ばれた白魔導士はツトム様に他なりませんから、良いアイデアかと存じますよ? それにこうしてアンチテーゼ用の刻印装備まで急遽準備して広めてくださいましたし、段取りまで仕切っていただいたようで」
ユニスとのキャットファイトも休戦して追いついてきたステファニーは、ロイドを通じて聞かされた努の偉業についてこれ見よがしに答える。ただシルバービーストの白魔導士たちはそれよりもあのステファニーだと目をキラキラさせている者が多い。
「アンチテーゼ用の刻印装備を揃えるの、主に私が担当したのですがね」
「雑用ご苦労様でしたわ」
「その刻印装備、脱がしてやるですよ?」
「出来るものならどうぞ?」
「ツトム弟子―ズ、ここに見参っ!」
そんなステファニーとユニスを背景に独特なポーズを決めたロレーナは、呆れ顔の師匠を見てにへらと笑った。
「最近はユニスも機械階層まで追いつきそうですし、みーんな最前線で集まれそうですね。師匠としては鼻が高いんじゃないですか~?」
そして弟子の成長ぶりを称えるがいい~と兎耳でどすどす突いてくるロレーナに、努も少し感慨深げな顔をした。
「まぁ確かに、全員最前線まで生き残るとは思ってなかったよ」
「私《わたくし》もこの駄狐が食らいついてきているのは意外でしたわ。邪道も邪道なのでツトム様の弟子として相応しいかは別ですが」
「あれだけ大言吐いたくせしてツトムに負かされて、介錯までされてる奴こそ弟子の資格はないのです。破門なのですよ、破門」
「まるでわかっていませんわね。ツトム様はそこまで器量の狭い師ではありません。自身を越えようとする弟子に対して、むしろ望むところだと勝負を受けてくれるお方。いつまでも弟子の立場に甘んじている貴方たちこそ恥じるべきでは?」
「はーい。そんな師匠の前で喧嘩しないで下さいねー」
ステファニーの普段見ない姿を前に軽く引いている者たちがいる手前か、ロレーナは冷静に場を鎮めようとした。ただそんな彼女を前にステファニーは頬に手を当てて残念そうにため息をつく。
「もうマニア気取りで前線には立たないようですね。では私の踏み台としてこれからもよろしくお願いしますわ」
「そもそもロレーナは三種の役割の時の弟子じゃないですし、それで一番弟子気取りなのも前から気に食わなかったのです。それにツトムよりも年上ですよね?」
「……年上だからって、弟子になっちゃいけないわけあるかー! くぉのやろーーーー!!」
年を引き合いに出されたのがよほど地雷だったのかロレーナはユニスに組みかかるも、意外と武闘派であるユニスはひょいと受け流して足を引っかけ転ばせた。
「フィジカル頼りはこれだから駄目なのです」
「かっちーーーーん?」
ちょっとした小手先で勝ったと思っているユニスにロレーナも乗ってきた中で、努は面倒くさそうに杖を振った。
「ここで模擬戦始めるんじゃないよ。ロレーナ、ステファニー。各自の指揮はよろしく頼むよ。今のところマウントバグの反撃手段は確認されてないけど、もしかしたらあるかもしれない。徐々に試していくよ」
「勿論ですわ。あのようなデカブツはさっさと倒して、一緒に機械階層に参りましょう」
「何で私だけのけ者なのです」
「お前、シルバービーストだろ。ロレーナの下」
「…………」
そうしてアンチテーゼ部隊に集まったかつての弟子たちとたわむれながらも、努はマウントバグの襲来と障壁外で為されている仕掛けの準備が終わるのを待った。
師弟だけの話めっちゃめずらしいな