第777話 緊急事態ですよ?
ノースキルノーステータスの影響を受け、スキルによって契約が為されていた精霊たちが光の粒子に包まれて薄れていく。リーレイアの契約していた褐色肌のシルフもその例に漏れず、最後に彼女の頬にキスをして風に溶けていった。
「えっ? シルフ……? シルフ?」
その温もりが残る頬を押さえたリーレイアは、同時に自身のステータスも半減していく喪失感にも襲われ、慌てて精霊契約を確認する。
「契約――サラマンダー。契約――ウンディーネ。契約――ノーム。契約――シルフ」
サラマンダーとウンディーネはその契約に応えて顕現したが、ノームとシルフは出てこなかった。
「ウンディーネ!? 何でっ、どうして応えてくれない!?」
「待って! シルフ待って! ねぇ!?」
「契約が、切れてる? 嘘でしょ、そんな……!」
その有り得ない現象を前にリーレイアがぞっとしている中、周囲にいた精霊術士たちも普段とは違う精霊たちとの唐突な別れでパニックになり始めていた。
「何が……一体何が……!?」
突如としてマウントバグの体がひしゃげて絶命したことと、遥か上空から聞こえたノースキルノーステータスという詠唱。精霊契約が切れた原因としてはそれしか考えられず、リーレイアは空を見上げたが特に異常は見当たらない。
「フライも、怪しいっ。合流、合流……」
まずは無限の輪のメンバーたちと合流するため、リーレイアはステータスの半減した身体で走って城壁上へと向かう。
その道中でも奇妙な詠唱の影響を受けた者たちの様子は見られた。召喚士たちが召喚していたモンスターも全て事切れた者もいれば、半数に留まった者もいた。音楽隊の演奏は再開したものの、成立していないスキルがいくつか見られた。
ステータスが喪失していく中で何とかフライで不時着し軽傷で済んだ者を白魔導士が回復しようとしているが、スキルが一部使えずに手間取っていた。ステータスとスキルを全て喪失した者も少なからず存在し、もう忘れていた人間本来の脆弱さに竦み上がっていた。
「えっ? 動作不良? こんな時に!!」
ノースキルノーステータスの影響は動画機にも及び、中継は途絶えていた。それに刻印装備も一部は機能を停止しており、その輝きを失っている。
「おい! リーレイア! こっちだ!」
「アーミラっ」
そんな者たちを横目にリーレイアが無限の輪のメンバーを探していると、フライで飛んで周囲を見回していたアーミラから声がかかった。こんな状況下でも臆せず空を飛んでいる彼女の胆力に思わずキュンとしながらも、リーレイアは既に集まっていた無限の輪との合流を果たした。
「よいしょ、っと!」
「おもっ」
コリナとディニエルはステータス半減と刻印効果の消失により、自身の装備の重さで動けなくなってしまっていたダリルのフルアーマーを何とか脱がせていた。彼は顔を青くして呼吸をつまらせながらその荷重に耐えている。
ハンナはステータス半減による違和感の中、青翼を広げて魔力の巡りを確認していた。そんな中で一人手持ち無沙汰にしていたエイミーにリーレイアは話しかける。
「ツトムはどこですか? 精霊契約が切れてしまったようで……新精霊もどうなのか試したいのですが」
「あー。ガルムが追いかけてるはず。ツトムは蠅の王を追っていったっぽいから」
「……?」
それなら負けじとエイミーも付いていきそうなものだが、ここで大人しくしている彼女を前にリーレイアは首を傾げた。
エイミーは帝都のダンジョンに潜っていたこともあり、神のダンジョンで得た力を全て失っていた。それを気取られないよう彼女は気丈に振る舞ってこそいるが、その内心は動揺で揺れている。
「無限の輪が全員合流してから向かうつもりだけど、この緊急事態であまり悠長にもしてられない。手分けして向かおうとしてたところだよ」
「なるほど」
「ハンナは魔力の調整にもう少し専念するらしいから、ここに残ってゼノの合流を待つ。その他はツトムのところに行くんだけど……アーミラ! 戻ってきて!」
エイミーが声を張って空を飛びゼノを探していたアーミラを呼び戻す。そしていつもと変わりない様子で飛んできて着地してきた彼女を前に、リーレイアは軽く目を見開く。
「よくそこまで淀みなく飛べますね」
「多分だけど、ユニークスキル持ちはステータスとかスキルに変化が起きてない。アーミラとコリナは異変なしらしいから」
「……なるほど?」
「アーミラ、わたしに龍化結びしてくれる?」
「あいよ。龍化結び」
その変化が起きてからどうすればこれが治るのか思考を回していたエイミーは、アーミラが首筋から剥がした古い鱗を手の甲に張り付けてもらった。
するとその目が爬虫類のような形に変化していき、赤いオーラをその身に纏う。そして消失していたエイミーのステータスがそれに引き上げられて戻ってきた。そのことに彼女は心底ホッとした様子を見せた。
「やっぱり、龍化結びならこっちもユニークスキル扱いになってステータスも戻るね」
「え。じゃあ私に結んでもらっていいですか?」
「いや、実はわたしみんなと違ってステータス全部なくなってた側だからさ。悪いけどわたしに譲ってもらえる?」
「…………」
エイミーが龍化結びをしてもらうために嘘をついているとは思えないし、理屈からすればそれは妥当だろう。だがそれでもおいそれと納得はできない表情をしているリーレイアを前にアーミラは毒づいた。
「つーか、てめぇと龍化結びしたことねぇだろ」
「こんな、こんな緊急事態に何を言っているのですか!? 好き嫌いなど構わず私にも龍化結びをするべきだとは思いませんかっ!?」
「どちらにせよ一度に結べるのは一人だけだ、ボケが」
「ふいーっ! ようやく外れました!」
そうこう話している間にダリルの重鎧も上半分を脱がすことはできたので、彼が自身の装備の重さで潰れてしまうようなことはなくなった。ただ突然高重量の負荷をかけられる羽目となったダリルは脂汗を流し、しばらく立てそうもなかった。
「それじゃあダリルとハンナは回復しつつゼノの合流を待ってね! わたしたちはツトム回収してくるから!」
「おーっす。よろしくっす」
「はい……」
「あっ?」
そうこう話している内にエイミーたちの頭上を誰かが飛んでいく。それは周辺に誰も飛んでいないからこそ余計に目立つ、赤い長髪をたなびかせている女性を見たアーミラは目を剥いた。
「ババァ! 待てコラ!!」
「ちょっとー! 単独行動禁止!! 緊急事態だよっ」
カミーユを見つけるや否や飛び出そうとしたアーミラに、エイミーが飛びついて力づくで止める。
「ツトムが先! ギルド長は後!」
「わかったわかった!! さっさと行くぞ!!」
「イーグルアイ使えないの不便。フライも怪しいし」
「死の気配は見えないので……落ち着いていきましょうねぇ……?」
フライで辺りを見回すも死神の目に黒い靄は映っていないコリナはそう言い含めながら、アーミラを落ち着かせるためゆっくりと先導する。そんな彼女らをダリルとハンナは地上から見送るしかなかった。
マジで続きはよ状態だわ
気になりすぎる
ダリルは重騎士用フルアーマー重すぎて脱げないだから、聖騎士のゼノはそんなに重い鎧着てないとおもうよ