第779話 神龍
竜と龍は読み方こそ同じだが、その在り方は『ライブダンジョン!』においては明確な違いがある。竜の宴というイベントでは複数の竜が出現した後、その上位互換である龍が一匹出現する。
故に神竜と神龍もその法則に則って処理される。神のダンジョンにおいて既に神龍化を物にしていたアーミラは、神竜の本能に抗える抗体を有していた。
神竜へと変貌しブレスを吐く準備をしていたアーミラは、それを放つ直前に神華の身体をその五本指で握りしめていた。
「は?」
自身が生み出した種族である神竜が裏切るなど思ってもいなかった神華の呆けた声を、白い炎がかき消す。彼女を手で掴んで上に掲げたアーミラは、そのまま吹き消すようにしてブレスを放っていた。
「メテオストリーム」
『グッ』
そんなアーミラに合わせて雷鳥も嘴に溜めていた雷を放とうとしたが、それよりも先にロイドが流星群を操り横合いからアーミラを吹き飛ばす。
『ガアァァァァ……!!』
「神の見えざる手足」
その流星群をアーミラは敢えて防がず、神華をそのまま握り潰さんと力を込めていた。だが神龍の握力を以てしても内から膨れ上がる不可視の手ごと潰すことは叶わなかった。
アーミラの手がその圧力を押さえ切れず弾かれると同時、出てきた神華に向けて雷鳥が溜めていた雷を放つ。だがそれも透明な手によって防がれ、雷が散って拮抗する。
「エクスヒール」
その間に白いブレスによって焼き焦げていた神華の顔が、彼女自身の詠唱によって緑の気に包まれ瞬く間に癒されていく。そして完全に元通りとなった神華は、見えざる手を振って雷を弾き努たちの前に降り立った神龍を見据えた。
「今日は厄日じゃな。妾の出迎えがここまで不揃いで、神竜にすら裏切られる始末。これほどの無礼が重なったのは初めてじゃ」
「身から出た錆だろ」
うんざりとばかりに白く変色している髪を掻き上げる神華を前に、努はにべもなく返す。
蠅の王を殺されたミナの動揺ぶりと、カミーユが娘もろとも神竜にさせられたこともあってか、神華側についていたはずのヴァイスもこちらに手を出すのを躊躇っている様子だ。彼女の明確な味方は使徒であるロイドしかいない。
「器風情がぬかしおるわ。そも、神威も出てこず妾に対抗できるつもりか? 妾のレベルは999。全てのジョブとステータスを適用した身よ。勝てると思うてか?」
神華は自身の力を誇示するように両手を広げた。それに呼応して見えざる手も宙に広がる中、努は目を細めた。
(……いや、それならライブダンジョンのレイドボスの中でもかなり弱い方じゃね?)
マウントバグを潰したあの派手な足も、神の見えざる手足というスキルによるものであることは理解した。それがユニークスキル持ちには適用されないこともミナを見ればわかった。
そしていかに神華と言えども探索者と同じくスキルを声に出して用いなければならず、アーミラのブレスを耐えたのもS+近いVITがあるおかげだろう。神の見えざる手足による雑魚狩り性能こそ脅威だが、単体の性能で見ればさしたるものではない。
そんな努の考えが顔に出ていることが不愉快だったのか、神華は手を掲げた。
「神の見えざる手足」
「メディックルーム」
神華の詠唱と同時に努は緑の空間を広く展開する。その空間の乱れで不可視の手が動く様を見破り、この中で唯一ユニークスキル持ちではないリーレイアを近くに引き寄せる。
リーレイアを狙っていた不可視の手は、努の身体に触れた途端に弾かれて霧散していく。龍化結びをしているエイミーも同様だったが、二人を見て口をもにょつかせてはいた。
『カァッ!!』
神龍と化したアーミラはユニークスキル持ちではあるが、元々は神華に作られた種族である神竜人である。そのため神の見えざる手足の影響は半減に留まっており、自身を踏みつぶそうとしていた足に態勢を崩されたもののブレスで焼き払うことで事なきを得た。
「妾の手足がここまで通じぬのは初めてじゃな……」
遠い過去、神華が人の世に顕現していた頃に戦いを挑みに来る命知らずは少なからずいた。その中には魔法で神の見えざる手足に対抗する者こそいたが、完全に無効化されるなんてことは有り得ない現象だった。
それに神華が顎に手を当てて感心している中、努はリーレイアと手を繋ぎながら神龍のアーミラに近寄る。
「アーミラ、言葉は通じるか?」
『…………』
そんな彼を見下ろしたアーミラは口元から白い牙を覗かせながらこくりと頷く。
「悪いけど、あの見えない手足からリーレイアを守ってもらえる? まだ攻める必要もないからさ」
『…………』
「頼むよ。龍化結びするよりはマシでしょ?」
するとアーミラは龍の顔ながらも露骨に嫌そうな表情をしてみせた。そして渋々了承した彼女は左手でリーレイアをそっと掴んだ。それに大感激な様子の彼女は差し置いて、努は戦略を話す。
「カミーユはいずれ障壁魔法で捕まえられる。それまで僕たちは時間稼ぎに徹するよ」
「りょーかい」
『ヴゥ……』
「シルフにでもなった気分です!!」
そんなうるさいリーレイアに対して喰っちまうぞとアーミラが大口を開けて脅してみせたが、むしろ彼女は興奮を増してはすはすし始めた。それにアーミラと努共々ドン引きしている中、その遥か後ろでは努の予測通りバーベンベルク家が動いていた。
神華は憑依する際にGMアバターとしてLv999・全スキル保有という「ぼくのかんがえた~」を実行したんだろうけど、GMなら全ダメージ無効ぐらい積んでこい!