第782話 武芸者との勝負

 神華に向けて先制のモーニングスローを放っていたコリナは、いつの間にか努の傍で待機していた神龍の様子を窺う。すると彼は魔道具の拡声器を取り出して答えた。


「アーミラはこの状態でも意思疎通はできてたから問題ない! コリナはそのまま神華を押さえて! 神の手足はユニークスキル持ちじゃないと対抗できない!」


 そんな努の指示にこくりと頷いたコリナは、神龍と化しているアーミラにも口をぱくぱくされて含み笑いを漏らした。クラン仲間をカミーユのように袋叩きにするのも忍びなかったので、彼女が意識を持って味方に付いているのはありがたかった。


「神の手足は基本的に神華の動きと連動してる! コリナは接近して好きに動かさせるな! でも複雑な動きじゃなければ手足を使わなくても動かせるっぽいから、ユニークスキル持ち以外は警戒を怠るなよ! ……それと後ろの集団! 止まれ止まれ!」


 コリナたちが合流するまで時間稼ぎに徹しながらも情報は集めていた努の伝達。そんな彼に後ろから付いてきていたバーベンベルク家当主やアルドレットクロウの者たちの対処を任せたコリナは、マジックバッグから星球を引き出して神華と対峙した。


「アーミラたちを、戻して下さい」
「神の見えざる手足」


 神華はそんなコリナの声を無視した、というよりある種本当に聞こえていなかった。人間が周囲を飛ぶ蠅の羽音をうざったく払うかのように、右手で弾き飛ばそうとする。

 だがユニークスキルを神威に付与されている彼女にそれは通じず、神の見えざる手足が弾かれ霧散した。その手足の影響こそコリナは受けないが、風の流れで害意を向けられたことはわかった。


「グッドモーニング」


 話し合いに応ずる気がないのであれば、力づくで言うことを聞かせるまで。その真っ白な髪に神光を宿した神華の横腹を狙っての一撃は、間に挟まれた見えざる左手を貫通しそのまま左腕を捉えた。

 VITがS+である神華は痛そうに左腕を振るに留め、一歩強く踏み込みコリナと距離を詰める。拳闘士のジョブ補正が乗ったその拳が唸りを上げるが、既にコリナは死神の目を発動していた。

 死を予期する黒い靄によってその動きを察知していた彼女は、合わせるように一歩引きその拳をモーニングスターで下から跳ね上げた。その背後から差し込まれた強矢は神華の頭を正確に捉えていたが、不可視の足によって弾かれた。


「私が援護。コリナが決めて」
「了解ですぅ!」


 普段であればその矢で決まっていたはずだが、ディニエルはステータスとスキルを半分剥奪されており神の見えざる手足の突破も困難である。そのためコリナもいつものようには立ち回らず、自身の星球で敵を叩き潰すことを決めた。

 神華の全ステータスがS+であろうが、STRがSに達している者がクリティカル判定の部位に攻撃を当てればそれは致命傷になり得る。基本的には頭、斬撃であれば首か心臓が望ましい。


「ハイヒール」


 それにより受肉体が死に至れば面倒なことにはなる。だがそれでも神華は回復スキルを用いながら、爛々と神光の宿る瞳を輝かせていた。

 人に希望を見出して下界に降臨し数百年過ごしたと思えば、人の愚かさに絶望し天上へと隠遁いんとんする。そんな振り子の如き数千年を過ごしてきた神華であったが、武芸者に命を脅かされる経験など一度もなかった。

 神に挑んでくる武の極地に達した者たちに倣って、神華も武器を手に取り遊んでやったこともある。受肉体としてなら勝負に負けたことも多少はあった。だが結局のところ神の見えざる手足を使えば、その武芸者は何の抵抗もままならずに握り潰されてしまうという事実。それが神華から武芸者との勝負に対する真剣さを奪っていた。

 神の見えざる手足に多少は対抗できる魔法を持つ者が最低限。中には魔法を合わせて用いる武芸者もいたが、それらは半端者だ。それならば神の見えざる手足を制限してでも、人生を剣に捧げた者たちと遊ぶ方がまだ面白かった。

 だが今神華の目の前にいる星球を持つ祈禱師は、神の見えざる手足を無効化しながらも武を極めた者であった。そんな存在を前に神華は胸躍っていた。

 神のダンジョンの宝箱からドロップするモーニングスターを自身の手の内に創造した神華は、その性能を確認するように振るった。武芸者たちと数百年は戦闘遊戯を交わしていただけあってか、その風切り音はコリナを警戒させるには十分だった。


「パワースラッシュ」


 本来であれば大剣士でなければ用いることのできないスキル。だが全てのジョブに適性のある神華は装備が近くともジョブの恩恵である武器補正を乗せることが可能である。


「パワーストライク」


 それにコリナは祈禱師の進化ジョブであるスキルで応えた。星球同士がぶつかり轟音が響き渡ると同時、立て続けに二度、三度と打ち合う。

 神華は特異的なステータスとジョブ補正、コリナは進化ジョブと努の刻印が入った武器の強さが活きた。

 互いに違う強みをぶつけ合い拮抗する中、神華は身体ごと回転させてコリナの重い一撃を受け流す。武器の重心を知り尽くしたその動きは、長年武芸者たちと打ち合ってきた年季が垣間見えた。


「むぅん!」


 だがコリナもまた迷宮都市にいる最前線の探索者たちと模擬戦を行い、その武に磨きをかけてきた。その受け流しにたたらを踏むこともなく、手首を返して神華の振り下ろしを跳ね上げた。

 その打ち合いに神華がにっと口端を上げたのも束の間、飛来した矢が彼女の眼前で神の見えざる足に防がれ火花を散らす。コリナの肉弾戦に加えてディニエルの放ってくる矢を防ぐことに意識を取られ、神華はその場に縫い留められていた。

 そして神華が鬱陶しげにエルフを見やったその背後から忍び寄る、双剣士の暗殺者。龍化結びをしていることでユニークスキル持ちと同じ恩恵を得ているエイミーが、赤の弧線を描き神華の首を狩りにかかる。


「ボルテニックブラスト」
「双波斬」


 そんな彼女の動きを捉えていた黒魔導士のロイドは神華のカバーに入る。杖から放たれた雷撃を斬撃で相殺したエイミーは返す刀で彼を殺しにかかった。


「グラビティウェル」


 範囲内に重力を発生させて動きを鈍らせるデバフを巻いたロイドは、杖で双剣を受ける。だが黒魔導士は元々遠距離攻撃の後衛であり、進化ジョブもデバッファー系。ロイドは多少近接戦の心得もあるとはいえ、正面からの打ち合いは双剣士に分がある。


「ノースキルノーステータス」
「っ」


 だがロイドがそう詠唱し左手でエイミーを掴もうとした直後、彼女はすぐに離脱し距離を離して警戒を露わにした。

 使徒であるロイドも神華とまではいかないものの、ノースキルノーステータスを用いることができるのは知らされていた。ただヴァイスが裏切った背景まではエイミーも知らない。知らないが、推測することはできる。

 先ほどロイドは被弾を覚悟でこちらに触れようとしてきた。もし触れた状態でノースキルノーステータスを使われた際、龍化結びをも貫通する可能性があるのだとしたら。エイミーは何のステータスも持たない弱者に堕ちかねなかった。

 そのためエイミーもロイドを相手に万が一を引くわけにはいかず、接近戦に持ち込むことはできなかった。そして場が膠着したのも束の間。


「おおい! 不死鳥の! 貴様も少しは協力せんか! 妾はこやつと一対一で遊びたいぞっ!」
「…………」


 せっかくの勝負に水を差されるのを嫌ってか神華は声を出すも、ヴァイスは母娘もろとも神竜へと変貌させた彼女を前に不信感を露わにしていた。あんな真似をするなら自分との約束を守らない可能性も大いにあるからだ。


「ヴァイスさん?」
「……あれを押さえるのが、俺の仕事だろう。遊びにまで付き合うつもりはない」


 ロイドからの催促に対し、彼は腕を組みながら今もこちらを鋭い目で睨みつけている雷鳥を見返した。

 神華が生み出した不死鳥。雷鳥はそれに対抗するべく神威に生み出されたといっても過言ではない。故に雷鳥は不死鳥に見初められているヴァイスの動きを注視し、他の獲物に手を出してはいなかった。

 そうして神華を巡る場が硬直し、やけに大人しい雷鳥を横目に。努は狂信者の説得に苦労していた。

 コメント
  • 匿名 より: 2026/04/30(木) 9:30 PM

    狂信者→ステファニー?笑

  • 匿名 より: 2026/04/30(木) 9:48 PM

    更新ありがとうございます✨
    神を相手に互角に戦えるなんて天下無双の戦士だね、むぅは。

  • 匿名 より: 2026/04/30(木) 9:58 PM

    更新ありがとうございます
    コリナ、ずっと武芸者と戯れに闘ってきた神と互角かぁ~。
    思えば某有名な格闘モノの最初で
    主人公が栄養豊富な飯をガツガツ食ってて、
    →コリナ、趣味が飯の大食い。
    某有名なオーガが「格闘やってると解剖学に~」、
    →コリナ、看護師として痛みで暴れる患者をよく押さえつけてる
    …んでダンジョン最前線の攻略組……
    コリナのライフスタイル、わりと武人として隙が無い…?

  • 匿名 より: 2026/04/30(木) 10:00 PM

    「むぅん!」がすべてを持っていくんですけどw

  • 匿名 より: 2026/04/30(木) 10:29 PM

    コリナかっけぇ
    モーニングスターのぶつかり合い漫画やアニメで見たすぎるだろ

  • 匿名 より: 2026/04/30(木) 10:36 PM

    妾を守れ!って不死鳥化させられるやろなぁ…

  • 銀爺 より: 2026/04/30(木) 10:46 PM

    更新ありがとうございます!
    むぅんが武の極地って事は、素のテクでメルチョークラスって事で、回復職でそれってもはや武神ですね…
    そして、狂信者回がwktkすぎるぞい!!

  • 匿名 より: 2026/04/30(木) 11:01 PM

    ムーさんは漢女と書いてオトメと読むタイプ、ただし見た目はふわふわ系

  • 匿名 より: 2026/04/30(木) 11:01 PM

    更新感謝ー!
    さすが狂戦士ムー!!
    努、狂信者の説得乙www

  • 匿名 より: 2026/04/30(木) 11:33 PM

    ユニーク持ちで
    神華陣営ではない前衛
    レオン大復活や!
    と思ってた私がいました。
    コリナお前かい

  • 匿名 より: 2026/05/01(金) 12:03 AM

    触れるとアウトならハンナの相性が悪すぎる
    触られる前に腹ぶち抜けば大丈夫か…?

  • 匿名 より: 2026/05/01(金) 12:52 AM

    ヒーラーでみんな混乱してるけど、こう考えよう!
    僧兵
    これだよ
    僧侶であり兵士でもあるならセーフさ!
    むぅんむぅん!

  • 匿名 より: 2026/05/01(金) 1:01 AM

    うおおおお神と互角のバトル熱い!
     
    でもおかしいな、コリナのビジュアルは知っているのに頭の中のイメージが筋肉モリモリマッチョマンの変態になってしまう……

  • 匿名 より: 2026/05/01(金) 1:16 AM

    更新ありがとうございます。コリナは選ばれし戦士だった…?

  • 匿名 より: 2026/05/01(金) 1:42 AM

    「むぅん」の字面の信頼感がすごい

  • 匿名 より: 2026/05/01(金) 2:21 AM

    更新感謝!
    やっぱゴリナさんっすわ!
    ゴリナ最強!ゴリナ最強!

  • 匿名 より: 2026/05/01(金) 2:31 AM

    全ステータスS+までしかないなら、そりゃぁmmo のボスとしては下級も下級だよなぁ。
    ダメージを通すのにギミックもなく、スキルも物理的制約がありそうな手足で、そもそも見て動作がわかる。

  • 匿名 より: 2026/05/01(金) 2:46 AM

    ムーさんどこぞの岩柱みたいな安心感なにこれ!

  • 匿名 より: 2026/05/01(金) 4:32 AM

    まってた

  • 匿名 より: 2026/05/01(金) 6:26 AM

    チェーンソーだ!チェーンソーを使うんだ!

  • 匿名 より: 2026/05/01(金) 7:20 AM

    ゼノの動きが気になる

  • 匿名 より: 2026/05/01(金) 7:28 AM

    JRPGの大家スクエアが少林寺などをモデルにしたモンクも僧侶
    狂戦士ムーは祈祷師
    病魔を呪言で払い、悪神をモーニングスターで伸すのも道理というもの

  • 匿名 より: 2026/05/01(金) 7:54 AM

    まぁ洋ファンタジーだと僧侶って半分前衛ポジだものね
    wizの僧侶とかデモンズの筋バサみたいな感じだと思えば案外違和感ないよね

  • 匿名 より: 2026/05/01(金) 7:56 AM

    世の中に敵と味方しか居ない過激派がおるな

  • 匿名 より: 2026/05/01(金) 8:23 AM

    昔からヒーラーは肉体言語で語るものと決まってんだわ
    カミノカゴヲー

  • 匿名 より: 2026/05/01(金) 8:31 AM

    更新に深謝
    漫画版のコリナめっちゃ儚げなんだけど、漫画の絵柄で本編のいまのコリナ描いたらどうなるんだろう…

  • 匿名 より: 2026/05/01(金) 9:00 AM

    当たり前のように前衛扱いされる

  • 匿名 より: 2026/05/01(金) 9:58 AM

    バーベンベルク家目線貴族としてどうすればいいか迷うよね
    あれは何?→神です、神の護衛である神竜(笑)は袋にしてぼこしておきました今から物理で神を倒します→いやおまえら何してんの?ってなるよ

  • 匿名 より: 2026/05/01(金) 9:59 AM

    神華さん……あのそいつ……ヒーラーです……

  • 匿名 より: 2026/05/01(金) 10:45 AM

    ああ、やはり受肉だとステ限界がS+程度なのね
    バフかければ追いつけそうな奴ら多そうだなぁ…

コメントを書く