第791話 信の形は違えど
剣から拳まで多彩な武芸を極めその道で人類の頂点に至った者、もしくは生まれによる才能を魔力鍛錬と知恵で磨き抜いた者。人間社会に目標を見失った者たちが最後に挑戦者となれるのが神との戦いであり、その神善試合を神華は受け持ち続けてきた。
力の向け先を見失った人間たちを神華は時に屠り、時に指導してきた。そんな悠久の時の先端に、単身で自身の魔力を初めてここまで消費させた鳥人が現れた。その記録更新は千年ぶりであり、神華の感動もひとしおだった。
ハンナは全てを出し切っていた。複数属性を扱うことによる魔流の拳の反動は、受肉体の記憶を読み取ることで神華も認識していた。ただ彼女はその反動も顧みず神に挑み、スキルと刻印に魔力まで掛け合わせた技を披露した。
その技で結構な力を入れた神の見えざる手足をも見事打ち壊し、最後は魔流の拳による第二の奥の手でこの受肉体に深手も負わせてみせた。
仮にこれが先ほどまで乗り移っていた受肉体であれば即死は免れなかった。その一撃を最後に倒れ込んだハンナに神華は敬意を表し、傷も治さぬまま歩み寄り言葉をかけようとした。その呼びかけで武芸者は報われたような笑みを浮かべ、妾の腕の中で旅立っていくもの。
「おのれらっ……!」
だがその声掛けは雷鳥によって妨害され、続く矢と共に犬っころが乱入してきた。それに神威の器が、妾が声をかけるべき存在であるハンナを横から掠め取っていった。それは神善試合を汚したことに他ならない。
「所詮は泥にまみれた野良犬よな、武人に対する礼節も弁えておらぬかっ!! 妾の声を邪魔するなど万死に値する! 皆殺しにしてくるぅわ!?」
そんな神華の続く言葉をまたしても封じたのは、彼女自身の右手だった。
その手の甲に張り付けられていた赤鱗はアーミラが近づいた影響でより輝きを増し、神華の舌を双剣の片割れで突き刺していた。
神華が受肉体として乗っ取っている現状、エイミーが意識を取り戻すことはあり得ない。だが龍化結びの繋がりは微かながらに彼女の意思を呼び起こし、その右手を神華へ突き立てるに至った。
「…………」
その自傷行為を目にしたディニエルの瞳が震え、致命傷にはならない手足への射撃を続けながらエイミーの下へと走り寄る。指を全て落とされていたコリナもその目に神華の死期を捉え、脇にフレイルの鎖を挟んで果敢に前線へと向かう。
『ガアアアアッッ!!』
その赤鱗を通してエイミーの右手に干渉していたアーミラは、これを好機と捉えて踏み込んだ。神の見えざる手足はハンナとの激戦で全て破壊され、エイミーの右手がその口を封じているので再展開もできないだろう。
ただアーミラも既に何度かブレスを放ったことで精神力は限界に近いため、神龍の身一つで神華を潰しにかかる。だが彼女は突然右手の制御を失い口封じされたことにも慌てず、その圧倒的なステータスを活かしてのステップで拳による乱打を躱した。
「むぅん!」
「エイミー!! いい加減目を覚ましてっ!!」
指のない手と脇で鎖を挟んでのフレイルを何とか操作し振り回すコリナに、神華の口を封じている友に呼び掛けるディニエル。身を屈めてそれらの攻撃を躱すエイミーの目には未だ神光が宿っており、目を覚ますことは万に一つもない。
「カウントバスター!」
「メディック」
「!!」
そして痛ましい翼の状態こそ戻っていないものの、治療は完了していたハンナも拳を振るい努は皆のサポートに回る。そんな二人を前に神華は異様に目を見開きながらも、まずは自身の口を今も刺し続けているけったいな右手から斬り落とそうとした。
「んむぐぅぅーーー!?」
そこに降りかかるは上空を飛んでいた雷鳥の放った雷にも等しい雷撃。強固なVITにより致命傷には至らないが、それでも神華の身体が数瞬止まった。
「ミスティックブレイド」
その隙をガルムは見逃さなかった。
進化ジョブを解放し藍色の気を放ちステータスを変化させた彼は、スキルを用いたロングソードで神華の首を斬りにかかる。それは隙だらけとなった彼女の首筋へするりと到達し、切れ込みを入れた。
異常なVITによってその剣は阻まれているものの、クリティカル判定によりその頑丈さが軽減される。ずずっと剣身が首に入り切り裂き、赤い血が噴き出す。
「んんぅーーー!?」
「やめてっ」
エイミーの目から神光がなくなり、くぐもった悲鳴が響く。それに反応したディニエルが思わず止めに入りかけたところを、コリナが抱き着いて止める。
その首に手をかけているガルムに対し、悲痛に助けを求めるエイミーの目が無言で語り掛けてくる。だがそんな神華の口を止めている彼女の右手には一切の揺らぎがない。
それを目の当たりにしたガルムは強がりの笑顔を浮かべてみせた。
「安心しろ。ツトムならきっと、治してくれるっ!!」
先ほど神華がエイミーの身体を乗っ取った際も、それはほぼ瀕死の状態であった。であれば今の彼女もまた死に瀕しなければ神華が出ていくことはないだろう。
そしてガルムは先ほどツトムが首を落とされた蠅の王を治療し、その一命を取り戻させた光景を目の当たりにしていた。であれば首を切断してもエイミーはきっと生き返る。
ツトムならばそれができると信じるに値するし、仮にそれで死んだとしても彼女は本望だろう。自身のために仲間を皆殺しにされるくらいであれば、けったいな猫でも死を選ぶ。そうガルムは推測できるくらいには彼女を理解していた。
同情心を煽る目線をくれようと一切手を抜かず、首を斬り落とさんと力を込めている犬人。それに対し神華は諦めたようにふっと視線を落とした。
その瞬間、神の見えざる手がガルムに殴り掛かった。
こんな精神性のヤベー存在生み出した昔の人達と宗教が悪いと言えばそうなんだけ
それにしたってあまりにも酷いんだよな
同情する気すら湧かない程度には