第794話 ふてぶてしい奴ら
それからバーベンベルク家のスパーダと神華について情報共有をした後、努はクランメンバーたちを纏めて迷宮都市へと帰還していく。
(フライなしじゃ生活できない身体になりつつあるな)
自分とコリナ以外はステータスの半減により身体感覚が違っているせいで、率先してフライを使いたい状況ではない。それにリーレイアは完全に使えなくなっているため、努たちは徒歩で城壁まで戻っていった。
「多分しばらく入れないだろうから待機しててね」
『グゥ……』
まだ神龍が解ける気配もないアーミラを城壁前に待機させ、努たちは門から迷宮都市へと入っていく。
未だ神華が迷宮都市全域に放ったノースキルノーステータスの効果は健在であり、城壁内に入るとその混乱の跡が生々しく刻まれていた。
道の端には魔石の紋章が入った空っぽの木箱がいくつも投げ出されている。ステータスとスキルの喪失による探索者の弱体化。それに伴い神のダンジョンから魔石の供給が薄くなることを見越してか、混乱に乗じて魔石が強奪されていた。
そこらにいる人々もまるで革命直後のように何処か浮足立っており、逆に探索者たちは肩身を狭くしている様子だ。それこそステータスにかまけて横暴な態度を取っていた者たちは、余計に人目を避けて既に見当たらない。
とりわけ帝都のダンジョンに潜っていたことでステータスとスキルを全損した者たちの動揺ぶりは、未だに収まっていない様子である。
その中でも努の目を引いたのは紅魔団だった。蠅の王関連で活動していた紅魔団は、ほとんどのメンバーが神のダンジョンで得た力を失っていた。更にリーダーのヴァイスもバーベンベルク家の障壁に刃を向けて神華に味方し、今も行方知れずである最悪な状況。
「ツトム? 私はこの通り無一文みたいなものだし、助けてくれるわよね?」
しかしステータスの喪失に男性陣が今も落ち込んでいる中、城壁上から降りてきていたアルマはあっけらかんとした顔で努に助けを求めていた。いつもと変わらない彼女のふてぶてしさに努は目を丸くしつつ言葉を返す。
「僕らのクランハウスは空きないから、シルバービーストに口添えしておくよ。集団で固まればどうにかなるでしょ。……にしても落ち着いてるねお前は」
「女の黒魔導士なんて前からひ弱だったことに変わりはないしね。開き直るしかないっての。アタッカーとかタンクの男どもは頼りないし」
「そういえばミナと蠅の王は大丈夫そうだった?」
「あぁ、今はクランハウスに運び込まれてるみたいね、あの子は。まぁあいつはユニークスキル持ちでステータス失ってないし、何なら最も安全な方でしょ」
「それもそうか」
「……それにしたってあんたも随分と落ち着いてるじゃない。エイミーとギルド長、連れ去られたんでしょ? 神華っていう帝都の神様にさ」
遠目ながらに神華との争いを城壁上で見て、知り合いの獣人から情報は聞いていたアルマの言葉に努は肩をすくめる。
「ま、どうにかなるよ。死んだわけじゃあるまいし」
「……そうね。それにうちのクランリーダー様も私たちに黙ったままバーベンベルク家に反逆して、挙句の果てには炎の鳥に連れ去られちゃったし。もしエイミーたちを取り返しにいくならついでに連れて帰ってきてちょうだいね?」
「ヴァイスは神華と別行動だとは思うけどね。不死鳥が勝手に連れ去っただけっぽいし」
「そうなの?」
(そういえば不死鳥が引いたのも雷鳥に神威が入ってるって認識したからか? あっちも一枚岩ではなさそうだな)
そうこうアルマと話していると、努の太ももにぼすっと黄色い尾がぶつけられた。ぶつかりおばさんならぬユニスである。
「私はかくまってくれるですよね? 乙女のピンチなのですよ?」
「自分から乙女と自称する奴は碌な女じゃないのは確かだね」
「でも治安が悪化してるのも確かですし、帝都の中階層くらいは危なそうなのです」
「それでいったらシルバービーストの方がまともそうだね。普段から下とのコミュニケーションも欠かしてないし、恩を仇で返す奴も少ないでしょ。アルドレットクロウと無限の輪の方がヘイト怪しいし」
「普段の行いが物をいう、という奴なのです。……で、エイミーは本当に助ける予定なのです?」
「話は聞いてただろ?」
「…………」
ユニスのピンと立った狐耳を見下ろしながら努が返すと、彼女はその真偽を確かめるように努の顔をじっと見た。
「……建前ってわけでもなさそーなのです」
「僕がエイミー切り捨てるとでも思ってたのか? 嘘だろ?」
「いや、まぁ……」
「ねぇ……?」
まだその場にいたアルマにも気まずそうに同意された努はマジかよと目を見開く。それにユニスはごにょごにょと補足する。
「帝都でPTを組んでた時、エイミーはお前に対してとんでもないことをしちゃったと嘆いてたのです。帝都で活動しているのもせめてもの罪滅ぼしって。……まだ詳しくは聞いてないですが、それもあるみたいだし有り得るかなと」
「……まぁー、今となっては解決してるからなぁ。それにあれからは無限の輪のクランメンバーとしてよくやってくれてるし、ガルムに並ぶ最古参だぞ? 仮に解決してなかったとしても、助けには行くって」
「なら、よかったのです。エイミーのこと、頼むですよ」
そう言って託すように努の手を掴んだユニスの握力は、普段より貧弱もいいところだった。
「おばあちゃんにでもなったみたいな握力だね」
「ぶっ飛ばすですよ? クリティカル判定狙えばやれないこともないのです」
「やめてね」
怖い怖いと手を解いた努をねめつけたユニスを横目に、ディニエルも少し緊張の糸を解いた。ユニスの懸念に関して少なからず同意している部分があったからだ。
そんな彼女の様子を察したハンナはにっこり笑顔になった。
「よかったっすね!」
「うるさいハゲ」
「はっ、はげぇぇぇぇ!?」
「やめておけ」
ガルムは一触即発なハンナの肩を押さえ、ディニエルを目で制した。
更新乙
これが続くと貴族が復権してきそうだの。