第798話 アプデと言えなくもない
クランメンバーと今後の方針についての話し合い兼、色々と失った者たちのメンケアも終わり、明日に向けて各自が眠りにつく中。努もまたベッドで横になり寝る努力はしてみた。
(眠れるわけもなく)
ただこの異常事態を前にして完全に目が冴えてしまっているため、無駄な努力を止めてすぐにベッドから起き上がった。そして音を立てないよう雨戸をひっそりと開け、窓から魔石を燃料として煌々と輝いている迷宮都市の街並みを眺める。
探索者にとってはステータスとスキル半減、もしくは全てが消失するということは人生が一変する事態だ。だがそれ以外の者たちからすればスタンピード自体は退いており、警備団も多少は機能しているため普段通りの日常に戻りつつある。
努も外に出る身支度を整えつつ自身にバリアを入念に張り、部屋を出て一階のリビングに降りる。ほとんどの者が自室にいる中、ソファーで夕刊を読んでいたガルムは犬耳を立てて努の足音を判別していた。
「ちょっと出てくるよ」
「……一人で帝都まで行くとは言うまいな?」
一人で抱え込んだ前科もあってか早とちりをしているガルムに対し、努はぶんぶんと手を振る。
「いや、全然そんな気ないって。ギルドに行くだけ。何なら付いてきてもいいよ」
「そうか。ならコリナに一言言ってから行こう」
片手落ちとはいえステータスの落ちていないコリナがいれば、万が一が起きてもクランハウスの安全は保たれるだろう。そう判断したガルムはすぐに彼女へ報告した後に努の後ろに控えた。
努はステータスやスキルが半減されていないため、現状では身の危険はさしてない。それに格下相手であれば無類の硬さを誇るバリアもあるため人に金棒くらいだが、そこに番犬もいるに越したことはない。
「警備団が頑張ってくれてるみたいだね」
「そうだな。先ほど買い出しに出た時よりも落ち着きが見られる」
元から探索者とのステータス差はあった警備団からすればステータス半減の衝撃はまだ少ないからか、既に起きた犯罪行為も迅速に鎮圧され治安は回復傾向にあるようだ。
そろそろ観衆が多いゴールデンタイムも終わり、ちらほらとディープな神台が顔を出し始めてくる時間帯。こんな状況でも成立している深夜の神台を横目に努はギルドの受付で用紙を噛み、ステータスカードを更新し内容を確認する。
神威から授けられた謎の光についての記述もなく、何ら変わらない内容であるステータスカード。ただそのことを誰かに知られるのは面倒でもあるため、努はそれをマジックバッグへと仕舞った。
「ガルムのも見ていい?」
「あぁ」
コリナの治療や挙動不審なリーレイアやらディニエルのケアなど、クランリーダーとしてやるべきことが山積みだった努はあれからステータスカードを確認できてなかった。
なので若干うずうずした様子でノースキルノーステータスの影響を受けているガルムのステータスカードを見てみると、確かにステータスは半減していた。レベル180以上の騎士であるガルムのVITは本来Sのはずだが、今はB-まで低下している。
(……火竜倒してた時よりも低くてワロタ。そりゃ皆パニックになるわけだな)
火竜を倒したガルムはレベル60台でVITがA-まであった。それに比べて一回りも低いB-。それではレベル40台が妥当なステータスである。
一気にレベルが100以上下げられたのと同義の変化と思えば、探索者のパニック具合も窺える。しかし逆を言えばそんな強烈なデバフを受けた中でも、神華に立ち向かった者たちの勇気もまた計り知れない。
「よくもまぁ、こんなステータスになっても僕に付いて来られたもんだね」
「当時はどれくらいステータスが落ちていたのか、正確に把握はしていなかったのも大きいだろうな。今考えれば自殺行為もいいところだったやもしれん」
「刻印装備はステータス系全部駄目になってるわけでもなさそうだし、それの効果もあったかもね。まだ全員分調べてないから何とも言えないんだけどさ」
刻印装備は基本的にステータス系を上げるものが機能しなくなっているようだが、中にはそれを免れたものもある。その違いは何が原因で起きているのか検証することは一考の余地があるが、それはユニスに任せるつもりだ。
努としても他の検証したいことは山ほどある。刻印はステータス系以外は大体が機能しているため、それらを利用してノースキルノーステータスをどうにかできないのか。それにサブジョブは他にも多くあるし、レベル自体は変わっていない現状ではジョブごとの特性も気になる。
ダリルは自身の装備に潰されかけたとは聞いたが、ではフルアーマーは無理にしてもどれくらいの鎧であれば着られるのか? 進化ジョブを使った際もノースキルノーステータスは適用されるのか? 神のダンジョンに潜っていた者たちはノースキルノーステータスの影響から逃れられたようだが、何か後付けでその状態になれる手はないのか?
「ここにディニエルがいなくてよかったな、ツトム」
「え?」
「遠足前の子供みたいな顔をしている」
ガルムからそう指摘された努はその表情を引っ込め、生真面目な顔をしてみせる。
「……不謹慎にもほどがあるかな」
「あいつから言わせればダンジョン脳といったところか? ツトムらしいと笑って見守っているだろうさ」
「勝手に殺すんじゃないよ。不謹慎だぞ?」
「多少は茶化さないとやっていられない。まったく、神のダンジョンを作った神なる者が現れるなど、今でもあまり信じられておらんぞ?」
人が死んでも生き返る神のダンジョンが現れた当初はガルムとて驚いたものだが、今となってはもはや日常と化している。だが実際にステータスが半減させられたことで、改めて神のダンジョンの凄みを感じたガルムは珍しく饒舌だった。
そんな彼は藍色の尻尾を時折持ち上げては下ろしながらも、隣にいる努に呆れ気味な顔を見せる。
「それでも、ツトムはむしろ楽しそうだ。あの時と同じだな。火竜を三人PTで討伐できて当然と言わんばかりの態度ぶりは」
「今回ばかりはそうもいかないよ。まぁでも、今日からやれることは山ほどある。それに、あの時と違ってこの状況に目を輝かせてるのは僕だけじゃない」
普段であれば神台嬢が映っていてもおかしくない時間帯であるが、中堅下位の探索者たちは今が好機と捉えてか寝る間も惜しんで神のダンジョンに潜っている。
スタンピードに呼び出されていた上の探索者たちが軒並み弱体化した今、成り上がるにはここしかないと血眼になってダンジョンを探索する者たち。その熱気をずらりと並ぶ上位の神台から感じ取っていた努は笑みを深める。
「こういう変化なんて中々ないからね。エイミーが連れ去られてなかったら大喜びで検証してたのにな」
「だからわざわざこんな時間になるまで大人しくしていたのか。いらん心配をしたな」
「本当にね?」
「自業自得だがな」
「ま、今日ぐらいは付き合ってもらおうかな。久々の脳ヒールだね」
「あまりされたくはないものだがな、あの惨状を見ると。女にだけあぁしているのか?」
「どうでしょうねー」
そう言って目を合わせて軽く笑った二人は、ノースキルノーステータスの状況下においての抜け道を探すべく奔走した。
不謹慎なタイミングで盛り上がっちゃうのもゲーマーあるあるな気がするわw
しかし、元のステに戻ったとしても、それまでの期間によっては動きの再調整が必要になりそうだし、暫くはPTも戦術もグチャグチャになりそうだなぁ