第811話 臓器破壊RTA

 空に広がる曇天の中にポツンと影が落ち、それはどんどんと大きさを増していく。そしてそれが龍のシルエットとして判別できるようになるまでの間に、アルマはラチェットロッドを時計回しにしながら努が話す100階層攻略の手筈に耳を貸していた。

 そしていよいよ爛れ古龍が曇天を抜け努が支援スキルを付与している最中に、何やらもじもじしているハンナがアルマに近づいてきた。


「えっと、どういう流れだったっすかね?」
「……あんたね、話聞いてなかったの?」
「いやー、身体の調子確かめてたらつい忘れちゃったっす」
「初めはガルムがヘイト取るからあんたは様子見。途中の死に役もガルムだから、あんたの出番は薄いわね。そろそろ爛れ古龍が血槍降らしてくるから気を付けてなさい」
「……なんかあんまりあたしの出番なくないっすか? 道理で覚えてないわけっす!」
「文句はツトムにでも言いなさいよ」


 二人がそうこう話しているうちに骨格だけの爛れ古龍が咆哮し、鮮血を硬質化させた槍を辺りに降らせた。

 前にもこんなことあったなとデジャブを感じたハンナは訳知り顔になりつつ、翼帯で保護された翼を動かしフライで空中を舞う。羽根が生え揃っていた以前のように細やかな制御こそできないものの、それでも他のPTメンバーより空中制御はお手の物である。


「セイクリッドノア」
「クリムゾンバーン」


 白魔導士の満月を模した聖属性スキルと、黒魔導士の巻き上がる炎によって血槍が迎撃されていく。コリナは素直に二人の傘下に入りウォーミングアップに足首をぶらぶらとさせており、ガルムは盾で受け流しパリィの調子を確かめていた。

 その血槍が降る間に、爛れ古龍の骨組みに細かな血管が張り巡らされて肉付けされていく。そして初めから再生済みの肝臓も動き始め、他の臓器の再生が始まっていく。


「コンバットクライ」
「ヒール」


 そしてガルムのヘイト取りを皮切りに、努は爛れ古龍の赤黒い血が集まっている個所へ回復スキルを放つ。

 爛れ古龍の前半は再生していく臓器のいずれかを破壊していくパートであり、そこでどれだけ主要な臓器を破壊できているかで後半の戦いの明暗が分かれる。それはプレイヤーに選択の余地があるDPSチェックであり、PTに応じてどの臓器を優先的に破壊するかもミソだ。

 ただノースキルノーステータス下のバグ刻印でステータスを上げたにせよ、ガルム、アルマ、努の三名は100階層の適正には届いていない。


「グッドモーニング」


 雨宿りをさせてもらっていたコリナは血槍が止むと同時に土煙を上げて飛び出し、爛れ古龍の肝臓まで跳躍して目覚めの一撃を叩き込んだ。その痛烈な星球での打撃に爛れ古龍が目に見えて怯む。


(180レベル超えにぶん殴られて可哀想に)


 コリナとハンナはノースキルノーステータスの影響を受けておらず、装備も180階層相当にツトムの刻印を合わせた逸品を身につけている。その二人は100階層においては明らかにオーバーパワーであり、キャリー義務が発生しているまである。


(まぁもしコリナがアンデッド化したらこっちが全滅しかねないから、緊張感は意外とあるんだけど)


 ただし100階層にはキャリー殺しであるアンデッド化があるため、今も肝臓をボコボコにしているコリナが敵に回ることも有り得る。そうなってしまえばこのPTでも全滅する可能性が高い。

 なのでコリナのアンデッド化だけは避けつつ、最悪ハンナがやらかして死ぬのも許容範囲に収めている。前の爛れ古龍戦でもやらかしているが、果たして学んでいるのかは疑問だ。

 そんな想定をしつつ翼帯を付けていても動きに乱れは見られないハンナを眺めていると、アルマが口端をひくつかせながら近づいてきた。


「同じPTから見ても化け物よねーコリナ。祈祷師の殴り合いなら誰にも負けないんじゃない?」
「かもね。カムラは王道の祈禱師だし、他はまだ二人の下位互換だからな」


 白門以外でコリナとPTを組んだのは初めてであるアルマのぼやきに、努も同じく頷く。彼も模擬戦でその強さを目の当たりにはしていたものの、同じヒーラーということもありPTを組んだのは初めてである。


「むぅん!」


 以前はエイミーが臓器を切り出し、クロアが槌で打ち付けて吹っ飛ばす解体業者じみた光景が繰り広げられていた。それに比べるとコリナは完全な力押しだ。両手に構えた星球で叩いては抉り、叩いては抉り。

 肉屋が見れば発狂しそうなほど肝臓の表面はぐちゃぐちゃであり、棘の痕が痛々しい。それから数分もしないうちに肝臓は食い千切られたかのように二つへ分かれ、光の粒子となって消えていった。


(臓器破壊RTAかよ)


 ここまでの火力があるなら全ての臓器を破壊することも現実的だろう。ただヘイトの分散が必要なのでここからは少しペースを落とさせ、再生し終わった胃はアルマに担当してもらう。


「メテオストリーム」


 アルマは空から降り注ぐ流星群を杖先で操り、再生されていた爛れ古龍の胃に向けて放つ。まるで生き物のように動く流星群を前に、空にいるハンナはおぉーと感心していた。


「ヘイスト、プロテク。ヒール」


 コリナは生み出されたガルムの血分身を一撃で葬り去り、彼はその音を犬耳で聞いて渋面をしながらも爛れ古龍のヘイトを取り続ける。その間も努は支援スキルを継続させつつ、時折爛れ古龍を回復させて臓器の再生を促した。

 血分身は基本的に爛れ古龍のヘイトを取っている者が現れやすいため、ガルムが主である。ただ多少の装備はコピーされるものの刻印までは適用されないため、ステータスが半減した状態で生み出されることになる。

 アンデッド化はまだしも、血分身はスキルを使えずそこまで人格的な動きをするわけでもない。そのため臓器破壊の一番手であるコリナを妨害しようとするものの、木っ端微塵にされ続けていた。


「げっ、ハンナだ」
「ボルテニックブラスト」


 ただたまにハンナの血分身が出ることもあったので、その時だけはコリナに任せきりとはいかない。ハンナはノースキルノーステータスの影響を受けていないため、ステータス値だけならコリナと互角である。

 なのでアルマが的確に放った雷系スキルで血分身の動きを止めた後、ハンナ自身が飛び膝蹴りで頭を粉砕して始末した。それを一瞥したコリナは星球を振り回して血脂を振り落とし、再び臓器破壊の作業に戻った。


「ガルム! そろそろ頼む!」
「了解」


 それから爛れ古龍がドス黒い血を流し始めた後も安定した進行であったものの、誰もアンデッド化しないままだと爛れ古龍はマイナー行動のオンパレードを披露する。そのため努はガルムにわざと死んでくれるかと頼むと、彼は鎧を脱ぎ始めた。


(流石に前のやらかしが効いてたか……? 今日は煽らなくて済みそうだな)


 努はお前アンデッド化しそうだなーといった目で時折ハンナを警戒していたものの、彼女の動きは避けタンクとして望ましいものだった。そんな彼の視線に気付いたハンナは感心されていると思ったのか、指をぶいぶいしていた。

 コメント
  • 匿名 より: 2026/10/02(金) 6:56 AM

    更新ありがとーーーーーーー!!!!!!!!

  • 匿名 より: 2026/10/02(金) 6:58 AM

    更新ありがとうございます!
    ハンナはハンナだなぁ

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