第771話 神台報道
バーベンベルク家からの招集依頼が来てから一週間も経たぬ内に、帝都方面から早馬が走り情報が更新されていく。その情報が最も早く民衆に出回るメディアは今まで新聞だったが、現在は動画機を繋いだ神台を用いた神台報道が最速となった。
『帝都方面で発生したスタンピードは現在迷宮都市に向け南下中であり、およそ三日後に襲来する見込みです。探索者はギルドにて手続きを行い班分けに従い迎撃準備に入ってください。それと迷宮都市の北区画には三日以内に避難勧告が為されるため、皆さんも避難準備をよろしくお願い致します』
スタンピードが発生した際の神台報道は今回が初めての試みであるが、ギルドの受付嬢がつい先ほど更新された原稿にも対応してより正確な情報を伝達していく。日々ギルドで目まぐるしい探索者の事務作業からトラブル対応までこなしている彼女らにとって、アドリブでの対応も何のそのである。
「もう新聞いらないっすねー」
その映像をギルドで見ていたハンナの言葉に、新聞社との関係もある職員たちはノーコメントを貫いていた。同じPTのエイミーもコメントしづらそうに口をもにょつかせ、アーミラはこれ見よがしにため息をついている。
「文字を学んだ意味がねぇな。村長が泣いてんぞ?」
「何を読むかはあたしが決めるっす。つまんないのが悪いっす」
「おーおーそーだな」
(げっ、ギルドの班じゃん。気まずっ)
そんなクランメンバーたちを横目にギルドにてスタンピードに対処する際の手続きを行っていた努は、ギルド職員から渡された用紙で無限の輪がギルドの班であることを知って目を上向かせた。すると若い男性職員が苦笑いで補足する。
「ギルドと第二支部は別なので、ギルド長の指揮下というわけではありませんよ」
「あっそうなんですね。助かります」
「もう顔がまざまざと物語ってましたもんね」
生暖かい目をしているダリルの言葉にギルド職員も苦笑いを深めつつも、急遽発生したスタンピードにおける配置を無限の輪のクランリーダーである努に説明していく。
バーベンベルク家は五年前に発生したスタンピードでの悪夢を払拭し名誉挽回をするため、当主は全身全霊で事に当たっている。今回こそ誰一人犠牲を出すことなくスタンピードを終わらせるため、スミスとスオウも方々に足を運び協力を頼んでいた。
それに探索者として最前線にいたバーベンベルク家長男長女は横の繋がりも強く、顔が神台で知れていることもあってか企業とも話は通しやすかった。
そんな二人が迷宮都市を駆けずり回って纏め上げることで、今回のスタンピードは発生が急遽だったにもかかわらず対応は後手に回っていない。以前とは比べ物にならない一体感を持ってスタンピードを迎え撃つ準備はできていた。
(迷宮都市で迎え撃てるなら万々歳だけど、神華側からするとどういう意図なんだこれ? バーベンベルク家の招集を利用して僕を帝都まで引っ張るのが最善策な気もするけど、何で迷宮都市にスタンピードが来る流れになったんだ?)
わざわざ帝都に出向く手間も省けている現状は努にとって幸運だったが、何故こうなったのか理解はできない。それにカミーユの指揮下についているわけでもないので、前準備も無駄になってしまった。
「スタンピードのギリギリまで潜るのズルくないのです? 最前線は間引きに行くはずなのに話が違うのです!」
そうぷりぷり文句を言いながら金色の大きな尾を揺らめかせている、背の低い女性が一人。その後ろには彼女と同じ背丈の鼠人《ねずみびと》に、他の二人と比較すると垢抜けている犬人が控えていた。
スタンピードの際にカミーユの指揮下で孤立させられるのを防ぐため、努は方々に手紙を送りスタンピードの際に協力を依頼していた。そのためギルド第二支部の指揮下になるのであればアルドレットクロウと共同戦線を組む予定だったが、アテが外れたためユニス率いるシルバービーストと組むことになっていた。
「文句は帝都までよろしく」
「そもそも地上まで帰るのが一ヵ月かかるダンジョンなのに、迷宮都市みたいに間引きさせるのなんて無理に決まってるのです。現場を見ずに法整備だけした末路がこのスタンピードなのですよ」
「随分と社会派だね」
「お前も帝都のダンジョンに一度でも潜ればこうなるですよ……」
それに加えてユニスは180階層の暗視装備の開発目途がようやく立ったこともあってか、異例の事態によりこの場に残っている努に恨みがましい視線を向けていた。するとその後ろに控えていた犬人のクロアが努をじっと見つめ、視線が合うと途端に笑顔を見せた。
「お久です!」
「どうもー」
「ツトムさんと組む機会が思いのほか早く来て嬉しいですが、わざわざ協力を依頼してきたのは意外でした。スタンピードってそんなに脅威でしたっけ? 五年前くらいに事件が起きたのは知ってますけど、今となっては負ける気配がしないんですが」
進化ジョブができてからは各々のステータス差も幅が広がり、半年に一度の間引きでモンスターの対処にも慣れている中堅どころのクロアにとっては、スタンピードはさして脅威に見えていない。
それにはソニアも同意見なようで何処か舐め腐った感が垣間見える表情をしていた。そんな二人の様子を振り返って確認したユニスは母親の如く眉を上げた。
「何て顔してやがるのです」
「いやーでもさー、ここ五年外で死んだ探索者なんてほとんどいないからねー。心配しすぎっていうか」
「五年前は探索者も含めて大勢死んだのですよ?」
「……まぁ、当事者じゃないと実感が湧かないのもわからなくはないけどね。実際に立ち会ったり、スカウトしようと思ってた探索者が死んでなかったら僕も実感はなかっただろうし」
「でも私たちもそういう認識だった時にあれが起きたのです。気を引き締めないと私がぶっ殺すのですよ」
暴食龍による惨劇を経験したことのあるユニスは低い声で警告し、それにダリルも沈痛の面持ちで頷く。その後ろからPT契約を終えてやってきたディニエルもぽかんと口を開いた。
「あの狐がよく成長したもの」
「うるせーですよ」
意外と付き合い自体は金色の調べ世代からの古参である彼女の言葉にそう返したユニスは、努PTをしっしと手で払った。
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