第802話 勝ちまくりモテまくり
「それで、このPTで今日は何をする? 一通り階層でも回ってみる?」
ギルドに向かって歩きながら前のめりに提案してくるディニエルに対し、努は茶化すこともなく答える。
「まずは101階層以降の各階層で目ぼしいところを巡ってみようか。100階層の攻略は明日コリナに力を借りる予定だから」
「……100階層。100階層か。確かに何か可能性は感じる」
元々努が日本に帰るための用紙を手に入れたのも、100階層を初めて突破した時である。それにその用紙には明確に神威が書いたであろう、日本に帰るための条件文が載せられていた。
そしてその用紙に書かれていた条件を満たすためにエイミーは帝都のダンジョンを100階層まで攻略し、皮肉にも神華に身体を乗っ取られる条件も満たしてしまった。
ただその条件を指定したのは恐らく神威であるため、無限の輪の誰かしらを神華の器にする意図はあったのではないか。もしそうであれば本当に神華が言っていた通り、迷宮都市で育った器を献上することが目的だったのか。
しかし努は神のダンジョンの環境や過去の歴史から見て、神威は黒子に徹する運営として認識している。そんな神運営が守精指輪を通じて努に気取られてしまうほど激情を漏らしたのは、神華の言動の後であった。それが勘違いも甚だしいものだったからこそ、努にその感情が漏れ伝わってきた。
「恐らく神威は制限がある状態で、あれみたいに自由奔放な動きは出来ないっぽいからね。多分、こっちからも何かしら干渉はしないと駄目そう」
「……ただ、それなら200階層の攻略が真っ先に考えつく。今の状態だと不可能に等しい」
「ノースキルノーステータスがいつ解けるかはわからないからね。使徒だったロイドは一日が限界だったみたいだけど、今回は神華がかけたからな。下手すれば神のダンジョン出禁と同じ感じで、一生剥奪なんてこともあり得るし」
そんな努の懸念に対し、ギルドで黒の門番をしていたガルムは口を引き結んで唸る。
「いたずらに人を何度も殺したことによる罰を受けて神のダンジョンの出入りを禁じられた者は、ほとんどが迷宮都市を出ていったからな……。ただ少なくとも数年は魔法陣が反応しなかった奴は見たことがある」
「仮にその罰と同じだと考えるなら、本当に有り得るかも。リーレイアがこの推測を聞いたらまた泣きそう」
「アーミラもあの神龍化、いつ解けるんですかね……?」
ダリルも心配そうに迷宮都市の外へと視線を向ける中、努たちはギルドに入りPT契約の列に並ぶ。ただ今日はいつもより新規の探索者希望が多いため、古いギルドの方も盛況だった。
「凄い人だかりですね……」
「ありゃ、もう広まったのか。噂が回るのは早いね」
昨日徹夜で環境調査をしていた努はこの人だかりの理由を知っており、それはガルムも同じだ。そんな彼がかつての職場である受付が火の車になっているのを同情的な目で眺めている中、ディニエルは努の肩を腕でつつく。
「どういうこと?」
「ノースキルノーステータスは今ステータスカードを持っている人には適用されてるんだけど、まだ作っていない人には適用されてない。つまりは、今が絶好の探索者始めどきってわけだね」
「……大抵の人は身分証明のために取ってると思うけど」
「それが手軽なのは間違いないけど、身分証明書はバーベンベルク家が発行してる正式な物もあるからね。それに前から迷宮都市に住んでる人はまだしも、移住しにくるような人は元々身分証明できる書類なり紹介は持って来るしかないし。今まで様子見してた人と、たまたま良いタイミングで来た新規も合わさった形だね」
そんな理由もあってか新規の探索者が入れ食いとなっており、ギルドがマッチングする野良PTも早々に組まれては魔法陣で次々とダンジョンに送り出されていく。そんな光景を前にダリルはじっと努の顔を見つめた。
「その噂って、もしかしてツトムさんが広めたんですか?」
「もしかしたらそんな仕様があるかもしれないと口にはしたけど、その仕様が本当なのか検証できるのはステータスカードが見られる本人か、ギルド職員しかいないからね。その人たちが口を滑らせた結果、この有様になってるんじゃないかな?」
「前の刻印装備といい、下の人たちにはやけに優しいですね……?」
「僕にもメリットはあるからね。下の人たちがいっぱい増えてくれたら、そんな大人数がいる中でも上にいる人たちってすげーーってなるじゃん? そうしたら僕も勝ちまくりモテまくりよ」
「…………」
努の下世話な話の真偽を確かめるべくダリルはガルムに視線を送ると、彼は仕方なさげにため息を吐く。
「ある種ギルドに近い理念でツトムは動いているだけだ。私利私欲の類いは方便だな」
「でも実際、誰も神台を見てない状態で一番台に映っても意味ないでしょ? その点、少なくとも深夜の神台が廃れることはなさそうだから感謝だね」
「汚らわしい」
現プレデターやレディアントなら多少はSNSでチヤホヤされるが、過疎ゲーでレインボーカンストしたところで誰も見向きすらしてくれない。サ終した『ライブダンジョン!』でそれを痛いほど理解させられた努は、だからこそ新規の開拓には余念がない。
それに表方で神台を通じて観衆を惹き付け、視聴率を上げてくれる探索者も数知れない。だからこそ努は裏方として探索者の新規開拓をすることでプレイヤーを確保する。神のダンジョンを維持するには探索者と観衆、その両方が必要不可欠だ。
「将来はギルド職員にでもなるといい」
「ディニエルがなったら数百年は安泰じゃん。よろしくね?」
「誰がやるか」
「でもギルドは頑張ったら数百年続いてそうじゃない?」
「どうだか。懐かしのお店がなくなってるなんてエルフからすればよくある話。ギルドもまだ十数年しか歴史がない」
「流石に国レベルじゃないと無理か……」
努たちはそうこう話しながら列に並んでいる間の時間を潰し、PTを組むと101階層から始まる刻印階層へと転移した。
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