第711話 てか、その指輪なに?

それから努たちPTはギルドに向かい180階層に潜った。もはやルーティンになりつつある春将軍と夏将軍は両者の武器を破壊して仕留める。残る秋将軍と冬将軍は順当に火力で押し切り撃破した。
この工程で倒すことで四季将軍:天は回復と強力な冬刀を、赤兎馬にはVIT無視の爆破と桜吹雪が継承される。努PTが目指す180階層攻略の調整は淀みない。
そして式神:星のフェーズに移る際。ハンナは進化ジョブを開放して色鮮やかな波動を身に纏う。そのまま自身の内から響く拍動に合わせてステップを踏む。
「ウインドステップとー、ブレイジングビートとー♪」
「ヘビーレギオン」
そのバフを受けながらアーミラは戦陣の加護という刻印を仕込んだ赤鎧に早着替えし、大剣を地面に突き刺し周囲のダメージを合計25%カットする砦を構築する。
その一方エイミーは星々が降る幻想的な背景の中、ステップを踏むハンナを神の眼で上手いこと撮影していた。その片手間でマジックバッグからまだ未鑑定のドロップ品を鑑定してレベル上げ作業もしている。
手数が武器である双剣士と式神:星の相性はすこぶる悪いので、彼女は一先ず裏方に徹していた。
「マジックロッド」
進化ジョブを開放し聖気に包まれた努の呼気と共に、無骨な杖が宙に浮く。
一ヶ月ほど修行した成果もあり、努は杖を自由自在に浮かせるスキルを実戦投入できるくらいまで操作感を向上させていた。ステファニーのように誤射も恐れず薙刀をぶんぶん振り回すことは出来ないが、浮かせた杖をマウスで動かすように動作することで80点くらいまでは引き出せている。
岩肌からそのまま引き抜いたかのような見た目をしたテクトナイトと呼ばれる杖。白魔導士には杖の武器補正があるとはいえ、成人男性でも片手で持ちあげることは不可能に近いそれは、マジックロッドで扱うには打ってつけである。
「七色の杖」
その杖に応じた能力が発動するスキルである七色の杖は、マジックロッドで制御可に置いている杖ならば遠距離からでも発動可能である。
テクトナイトの能力は硬質化。四季将軍:天でも一刀両断は出来ぬ硬度を纏ったそれは式神:星を下から砕き、そのまま貫通して真っ二つに割った。左側は粒子化し、核が残った右側は残る。ただその断面には黒い核が僅かに露出していた。
その硬度を維持している間は精神力が消費されるので、努は途中で解除し素のテクトナイトを核にぶつけて破壊し、今度こそ式神:星を消滅させる。そんな調子で努はいくつもの星を砕く。
「おっしゃー! あたしも行くっすよー!」
努が砕いた星々の残滓が舞う中、バフを撒き終えたハンナも負けてられるかと魔石片手に空へ飛び出した。そして式神:星を貫ける魔力を宿した拳をアッパーし、魔正拳を派手にぶっ放す。
だが式神:星は表面が多少削れただけで依然として落下軌道も変わらない。想定よりも遥かに軽い反応にハンナは空中で動きを思わず止め、雛鳥のように口を開けた。
「進化ジョブ解除してないだろ」
地上から拡声器越しに努の指示が飛ぶと、彼女は青翼をぱたぱたとはためかせた。
「あっ! 解除!」
努に指摘されてようやくそのミスに気付いたハンナはすぐに進化ジョブを解除した。拳闘士の進化ジョブであるバッファーのステータスではSTRが低いため、彼女が想定していた威力を大幅に下回ることとなっていた。
「はぁ……」
そんな彼女に心底失望したようなため息を漏らしたアーミラの横顔を、努はちらりと一瞥した後に式神:星に視線を戻す。
上ではハンナが次こそはと張り切っているが、この後に来る四季将軍:天の一矢も鑑みて彼女が絶対に勝つよう討伐数は調整している。そんなこともすっかり忘れて拳を構える彼女を横目に、努は再びアーミラの方へ意識を向けた。
ハンナはその極端な思考と避けタンクという性質も相まって、0か120しか出力がないピーキーなタイプだ、成功すれば派手に輝き、失敗すれば見るも無残に墜落する。努とガルムがコツコツ協力して築き上げた盤面をすっ転んでぶち壊したことは数知れない。
前回のPTでその被害を食らってきたアーミラのご立腹もわからなくはない。
ただ今のPTでは彼女もタンクを担う立場があるとはいえ、あくまでサブでありハンナの尻拭いは努とガルムが担っていた。このPTでは彼女がアタッカーとして前線に立てるよう支援もしている。
実際に彼女のアタッカーとしての活躍は悪くない。カミーユとの一件で調子は落としたが、龍化系のユニークスキルのおかげでアルドレットクロウのラルケよりもバリューは出しているだろう。
ただそれでもハンナの凡ミスに対しては苛立ちを隠そうともしない。そして男勝りな彼女なら「ボケコラふざけんなハンナゴラ」くらいは言って詰め寄りそうなものだが、見下すような視線やため息をくれるばかりである。まるでリーレイアみたいなねちっこさ。
心の奥に何かを溜め込み、それは腐ってどろどろとしたものに変貌して漏れ出ている。それが爆発する前にその原因を取り除かねばならないだろうが、十中八九カミーユのことだろう。
ハンナは単なる引き金であり、根本的な苛立ちの核ではない。大人になった彼女ならば一人で何とかするかもと様子を見ていたが、無理そうなのでガス抜きが必要かもしれない。
そう考えているうちにアーミラと視線がかち合う。一度逸らしてマジックロッドを操作し式神:星を一体倒してからまた見ると、まだ彼女はこちらを見ていた。
「んだよ」
「こっちの台詞だボケ。さっきから何チラチラ見てやがんだ?」
「ハンナに対してため息が凄いからね。今となっては僕が引き継いだんだし安心しなよ」
そう言うとアーミラは胡乱げに努とガルムを見回した。
「……てめぇらはよく耐えられるもんだな。あれは強ぇ時は強ぇが、弱ぇ時はとことん弱ぇ。それが続くとうんざりするだろ」
「残念ながらヒーラーだと日常茶飯事だから耐性がつくよ。とはいえ限度はあるから誰かに癒してほしいもんだけど」
「だったらハグでもしてやろうか?」
「じゃあ頼もうかな。めちゃくちゃ痛そうだけど」
赤の鎧を着ている彼女とハグなどしても癒されるわけもないが、努は冗談交じりに両手を広げた。それに乗ってやろうとアーミラは笑みを深めながら一歩近づいたが、彼の左中指にはめられている指輪に気付くとその笑顔がすっと引いた。
「てか、その指輪はなんなんだよ。気色悪ぃ」
「さてね。あ、そういえばエイミー。これも鑑定できるんじゃない?」
「……まぁいいけど」
いつの間に努がつけていたリーレイアと関係していそうな指輪にはエイミーも興味があったのか、彼から受け取ったそれを鑑定した。だが鑑定士42と迷宮都市の中でもレベルが高めな彼女でも完全に解析できなかったのか、虫眼鏡を取り出し更に精度を上げて鑑定する。
「……守精指輪。装備者が危機に瀕した時、契約精霊が独断で干渉、介入する権限を得る。神のダンジョン内では使用不可。氷狼、紅蜥蜴が契約を結んでいる」
「あーね。じゃあここでは外しておいた方がいいか」
「だね。価値も完全に判定できてないから、最悪これだけ指に残ってマジックバッグロストするかもよ」
「こっわ」
「それと他者への譲渡、売買、貸与した時点で消失するって。ツトム専用装備だね」
「対策されてーら」
リーレイアに精霊契約をお願いしたことへの当てつけだろうか。二度とやるんじゃねぇぞと凄むフェンリルに、しれっと契約に加わっていたサラマンダーが頭を揺らしている姿が内心で浮かんだ。
「婚約指輪じゃねぇのか」
「もし仮にそうだったら、自分も薬指にはめてこれ見よがしに見せつけてただろうね。リーレイア」
「ま、そんなとこだろうとは思ってたけどっ。それに、まだ私でも鑑定できてないこともあるから気を付けてね!」
(エイミーをメンケアしたかったわけじゃないんだけどな)
そう釘を刺したエイミーは何処かすっきりした顔でその守精指輪を返した。対するアーミラも多少はガスが抜けたようだが、まだ根本的な原因は残ったままだ。
「ふんぬっ!」
そうこう話している内に一際デカい式神:星を砕いてみせたハンナは、空にガッツポーズを決めて四季将軍:天が降臨するのを待ち構えていた。
その後に四季将軍:天が放った射撃で彼女は死んだ。彼女が四季将軍:天の一矢を凌げる確率は40%であり、まだ蘇生を前提としている。
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誤送信してしまった
ノームは幼女体の方で甘噛みしたら犯罪臭が…ハニワ体の方?というか甘噛み必要?
シルフは大きさ的にペロペロになりそう
ウンディーネはあえて人型でやりそう