第706話 集合知よりも
努がリーレイアに連行されている頃。アルドレットクロウのクランハウスにいたステファニーは共同戦線に集ったPTメンバーとの会合を迎えていた。
現状では無限の輪のゼノPTとアルドレットクロウの一軍二軍が集まっている中、二軍のヒーラーであるカムラは不愉快げに眉を顰めた。
「そっちのクランリーダーは随分と余裕そうだな」
「私たちのリーダーは少し我儘でね。他意はないさっ! それに君からすれば私たちこそ本命であろう?」
ゼノは快活にそう返し、努が不在であることに不満を抱くカムラの指摘をさらりと受け流す。そして金髪の祈禱師に値踏みの視線を向けられたコリナは何処か遠い目をしていた。
アルドレットクロウの一、二軍と無限の輪の2PT。事前に声をかけたのはその3PTだったが、白羽の矢が立った男からは神台を見れば済む話だと一蹴されてしまった。なのでステファニーはやむを得ず別のPT候補を探すことになった。
(確かにこの数年、ツトム様の啓示に従ったおかげで視野も広がりました。ただそのメンバーでここまで煮詰まったからこそ、私には新しい水が必要だというのに。相変わらず弟子の心がわかりませんこと)
自分だけでなくロレーナやユニスとも白魔導士としての立ち回りを話し合い、ヒーラーとして更に飛躍せよ。あの劇的な90階層突破を魅せた後にそう啓示した努にステファニーは従い、その甲斐もあって今の立場にいる。
ただその切磋琢磨は既に160階層で半年近く経験しているので、初期に比べれば学びはどうしても少なくなる。その点、二軍のカムラにとっては共同戦線により立ち回りの異なるコリナと意見交換することで大きな糧となるだろう。
一軍に上がってきた暗黒騎士のホムラもまた、かつては兄と同様に偏りが激しい視野しか持っていなかった。だが今は周囲に関心を向けるようになり、その成長ぶりは顕著だ。そんな彼女も共同戦線による伸びしろが期待できるので、ステファニーPT全体で見れば大きなメリットになる。
だが、そんなホムラが変わった切っ掛けは努と臨時PTを組んで白魔導士の可能性を脳に刻み込まれたからである。
以来、彼女は認識を改めてステファニーの実力も認めるようになったが、脳ヒールがないせいか何処か物足らなさそうな表情を見せることも少なくなかった。
(それこそ敵に塩を送るようなもの。どれだけ煽ろうが結局のところ、ツトム様は私を弟子として認識しているのです。既に180階層で出し抜くフェーズでもなくなった今こそ手を取り合える絶好の機会だというのに、師の矜持があるとはいえ無茶が過ぎると思うのですが)
一番台、ひいては最高到達階層の更新。それは探索者なら一度は夢見る果てであるが、そこに辿り着くには周囲の状況も鑑みる必要がある。
既に180階層が始まり一ヶ月経過した今でも底が知れない階層主を相手にするならば、最前線組のPTが複数固まって共同戦線を組むのが定石である。そこで孤立したところで集合知を出し抜くのは不可能だ。
あるいはツトムならそれでもという懸念こそあったが、その期待は初の180階層で潰えた。それでも孤立を貫いたのはツトムの選択だ。
ならばこちらは共同戦線を組み、階層主の情報と対策を蓄積させていく。その中で練度を高め、臨界点に達した後に勝負を賭ける。その仕上がりに単体のPTが勝てるはずもない。
ツトムが対抗するには独自の共同戦線を組むしかないだろうが、その初動で彼は大きな後れを取った。
またあのうるさい兎と顔を突き合わす羽目になるのは辟易するが、この共同戦線で師を冷徹に突き放す。それが氷の指揮者に相応しい効率を追い求めた立ち回りであり、もう師に水を差し向けることもない。
そんな絶対零度の如き決意をステファニーが固めていると、会議室の外から何やら騒がしい声が響き始めた。
その喧騒を割って会議室の扉を開けたのはゼノPTのメンバーであるリーレイアと、彼女にその手をがっちりホールドされていた努だった。
突然の来訪にステファニーは思わず席を立ち上がり、180階層の情報が纏められている書類を読んでいたディニエルは横目で一瞥した。
「さぁツトム。ダークエルフの魅力についてたっぷりと語って下さい」
「お前さ……」
ディニエルへの当て付け目的で駆り出されてきた努を前に、ステファニーの氷核がぐつぐつと煮え立つ。この人を前に冷静でいられないのはもう嫌というほど理解した。だからこそ彼女は目を背けたまま告げる。
「今は共同戦線の会議中ですわ。部外者は出て行って下さい」
「つれないね」
「ねー?」
「…………」
そう言って仲良さげに顔を見合わせた努とルークを前に、ステファニーは目を閉じて腰を下ろした。
11:16 PM
年齢で変わってくるらしいよw
今は全体だと誤用してる人の方が少ないけど、若くなるにつれて誤用率が高くなるみたいだから、そのうち誤用じゃなくなるだろうね
下手したら誤用だけ残るかもw