第752話 全種類倒してね
そうしてディニエルが平和に朝食を終えて帰っていった後、ハンナは彼女が帰ってくることが既定路線に入ったことが余程嬉しいのかうずうずしていた。アーミラとダリルは初期メンバーということもあってか悪くない表情で、エイミーもにこにこしている。
その一方でガルムとコリナは沈黙を貫き、マリベルはオーリと違い可もなく不可もない給仕に務めていた。リーレイアは先ほどのやり取りで多少は棘が取れたものの、無限の輪をいの一番に捨てた恨みはしばらく忘れそうもない。
(この場にいないゼノはさほど気にしなさそうなのが救いか。それに穴埋めしてくれてたシルバービーストのソニアたちの面子も立てなきゃいけないし、大変そうだなぁ)
そんな今後の展望を考えながら努は身支度を整え、PTメンバーと共に181階層へと潜りにギルドへと向かった。
昨日180階層突破した影響か努たちは注目の的であり、ギルドに入ってもざわめきが途切れることはなかった。そんな光景を前に穏やかな笑みを浮かべて手を振っている努を前に、アーミラは正気かよと言わんばかりである。
「お前、よくもまぁ手を振れるな。エイミーのおかげって声も多いだろうに」
「エイミーに神の眼弄れって指示したの、誰でしょーかっ?」
「ツトムンむーん! っす!」
ここ数年一番台の女王として君臨していたステファニーに対してGGしたことも知れ渡っているからか、努を見る目は羨望と嫉妬で溢れていた。そんな視線をものともせずに笑顔を振りまいている彼にはエイミーも苦笑いである。
それからPT契約を済ませて181階層に転移し、昨日に続いて一番台に新たな景色を見せた。昨日タイムリーに見ていなかった観衆たちも、それでツトムPTが一足先に180階層を攻略したことを認知していく。
そしてウィニングランの昨日と違い181階層をじっくりと探索しつつモンスターを倒していった努は、城周りを一周したところで空を仰いだ。
「この仕様、PTによってはエグいかもね」
「固ぁい……固いよぉ……」
物理攻撃がかなり通りづらいモンスターを相手にしていたエイミーは、半泣きでボロボロの魔石を拾い集めている。
181階層から始まった機械階層は現状黒門が確認できておらず、三時間かけても見つからないことから普段の仕様でないことはわかった。つまり昨日の予想通り、コアが傷付いていないモンスターからドロップする魔石を納品し大きな門を開けることで先に進む仕様のようだった。
ただ進化ジョブにより幅が広がっているとはいえ、それでもPTによって有利不利のあるモンスターは存在する。ツトムPTの場合は魔法系統が弱い傾向にあるため、物理が通りにくいモンスターはあまり相手にしたくなかった。
しかし先の階層に進むために必要な魔石を手に入れるには、弱点であるコアを傷つけない縛りプレイ下も込みでモンスターを倒さなければならない。これもまた進化ジョブを使いこなしなさいという神の思し召しを努は感じた。
「各モンスターの特徴やら弱点やらは探って戦闘方法を確立しないと、大分効率が悪いね」
「迷宮マニアに期待だな」
「綺麗な魔石取れないの地味にウザいっすね……」
「刻印油いらねぇー」
それに完全な魔石のドロップもどうやら確定でないことは判明したので、かなり周回する必要がある。それにその辺を走り回っているブロンズギアというモンスター以外にも、十種類は存在し空型もいるため全てを網羅するだけでも中々苦労した。
「何だこいつ……なんも落とさねぇぞ……?」
「そもそもドロップするのに条件がいるっぽい」
豆電球のような見た目をしたエレキポッドは非常に脆い魔法系統のモンスターであり、アーミラは一撃で倒せるが十体倒してもドロップ品がなかった。その条件は魔法系統のスキルを下部に当て、エネルギーを溜めさせて点灯させなければならなかった。
その他にもオーバーヒートを誘発させて排熱ダクトを空けさせることで核以外の弱点を攻撃できるオーブンゴーレムや、こちらを視認すると自爆してくるため隠密行動が必要なパトロールマインなど様々なモンスターが存在した。
「岩割刃、岩割刃、がんかつじーん」
「ほわちょー!」
オーブンゴーレムに対して岩割刃OTPと化したエイミーと、雷の魔石を使用し遠くから纏めてパトロールマインを始末したハンナ。そんなアタッカー両名の立ち回りによって今日の完全魔石は計五種類集まった。
「よし。今日はもう帰ろう。無駄足の探索でくたくただよ」
「ねー」
序盤に黒門がないことを確認する作業もあったため、今日は徒労感に包まれた日だった。そんな努たちが帰還してギルドに戻ると上位の台は軒並み式神:月フェーズに入っており、素人が神の眼を弄っているようでカメラアングルが終わっていた。
「…………」
「悦の入り方が様になってきたね」
「所詮はアイドル扱いしてた奴らは精々苦しむがいいさ~」
式神:月フェーズでエイミーが神の眼で何かをしていた形跡は見られたが、詳しい手順はまだ彼女しか知らない。そのことからぐふふといった顔で神台を見ていたエイミーに努は突っ込んだ。
そうこう話しているとエイミーは猫耳をピンと立て、別の方向を向く。それに釣られて努もそちらに視線を向けると、人の影に隠れてこちらをそっと見ていた小さな少女と目が合った。
「…………」
「待て待て、忘れてないから」
手が空いたら蠅の王関連で頼みたい用があるとミナから言われていた努は、目が合った途端にギョッとして逃走し始めた少女をそう言って呼び止めた。
更新来てたー!!
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