第762話 神台の在りよう
181階層で出現する一つ目玉の地上ドローンの見た目をしたパトロールマインは、探索者を補足するとけたましいサイレンを鳴らしながら突貫して自爆してくる。それに加えて周囲のモンスターを呼び寄せる効果もあるため、先に補足されると厄介なモンスターである。
そんなパトロールマインを相手にするにはまずこちらが先に捕捉する斥候の技術と、遠くから無効化できる狙撃能力があるのが望ましい。
ただ弓術士ディニエルの手にかかれば、パトロールマインがこちらを捕捉する前に片が付いている。矢と視界を共有できるスキルであるイーグルアイで周囲を索敵し、寸分狂わず放たれる強矢で狙撃し殲滅。
「あら簡単」
パトロールマインの急所であるレンズ状のコア。そこからディニエルは敢えて矢を外して撃ち抜いていた。それにより完全な魔石もいくつかドロップしており、それを拾ってきた努は思わず呟いた。
「これ見よがしな弱点が丸出しだとつい狙ってしまう。いやらしい仕様」
「エアブレイドとか撃ったらほぼ目玉のコアに当たるからなー。精密な遠距離ないとダルいね」
『ビャッー』
いくつかドロップした完全な魔石に興味津々といった様子のサラマンダーはしゃかしゃかと進もうとしているが、リーレイアにお腹を掴まれその足は空を切っている。それをディニエルが見かねて魔石を放ってやると、サラマンダーはそれを見事に口でキャッチし美味しそうにかじりついた。
リーレイアは目礼でディニエルに礼を返し、魔石に夢中なサラマンダーを彼女に任せた。そして他にもドロップした一般的な魔石や刻印油を回収しながら努に話しかける。
「前のPTではどのように倒していたんですか?」
「ハンナの魔流の拳で運任せだね。百体くらい倒したら一つたまたまドロップしたよ」
「それはまた……随分と効率が悪いことで」
「もう少し慣れればエイミーが器用に倒してくれただろうけど、遠距離がいるに越したことはないね」
「私情を挟んで愚かな選択をした代表者が悪い」
サラマンダーに魔石を餌付けしながらしれっと毒を吐いたディニエルに、努は気まずそうに視線を上向かせた。
「私情が挟まれるのもドラフトピックの面白い部分ではあるからね。それで言うと僕も今回はハンナと絶対に組みたくないっていう私情を挟んでるし」
「人間は愚か」
「そこまで問題になっていましたっけ? ハンナとツトム」
「傍から見れば平和そうでも、その内は醜い争いが繰り広げられているものだよ」
「確かにそうですね。無限の輪も傍から見ればこれで元通りと報道されていましたが、ご覧の有様ですし?」
神の眼を横目ににこりと微笑むリーレイアの言葉は、ゼノが彼女の声をOFFに設定しているため神台には届いていない。基本的に映像を切ることこそ出来ないが、ずっと会話も筒抜けでは気疲れするので半分はミュートに設定する上位の探索者は多い。
その設定はスキル名を除く人の声のみをミュートにしているため、サラマンダーが魔石をガリガリする音などは神台に届いている。なのでそこまで視聴体験が毀損されるわけでもない。
ただ下位の神台ではそういったことを見越して、ずっと喋りっぱなしで配信する探索者の需要も高い。そういった者たちに付く視聴者はその分熱量も高い傾向にあり、サブカルチャーとして人気を博していた。
「ゼノさん、刻印油まだ残ってますよ」
「ダリル君! 私は魔石を拾う方が好きだ!」
「好きも嫌いも構いませんから、全部回収してくださいね」
「前は回収の面倒な刻印油を放置していたくせに、現金なものだねっ」
「機械階層の刻印油は貴重ですから。今は無限の輪とアルドレットクロウしか持ち帰れないので」
そんな中、ゼノはこうしたミュート機能をほとんど利用せず神台に自分の声を届けている。それに付き合う形でダリルも今は使用していないが、彼ほどの熱量はないので気疲れした時は遠慮なくミュートにしている。
ただそんなダリルに構わずゼノが延々と喋りかけてミュートを解除させる様は、様式美の芸にも近かった。そんな二人のやり取りは神台でも好評であり、サブカルチャーとしての影響力も負けず劣らずといったところである。
そんな二人に周囲の魔石を拾い終わった努も絡みに行き、ダリルを労わりながら肩を揉む。
「ダリル頼むぞ~。これから刻印油めっっっちゃ使うからな~」
「ほら、ゼノさん」
「くぅ……仕方があるまい。その分私の装備にも刻印してくれるんだろうね?」
「君、ダリルより前線務まるの?」
「この私が! 負けているとでも言いたいのかねぇ!?」
「輝くな輝くな」
エンバーオーラを強めたゼノを前に、努は目を線にしながら刻印油の詰め終わった瓶を回収する。現環境で扱える刻印油の中では最高峰であるそれは、普段の刻印には勿論のこと180階層の宝箱からドロップした装備に専用刻印を刻むために欠かせないものだ。
(それに今思えばこっちにエイミー来てたら神台映えヤバかっただろうな。引っ込み思案のコリナに、仏頂面のガルムにアーミラ。炎上発言が怖いハンナに世情に疎いディニエルとなれば終わるしかない。実力派としてまだ降りる気はないけど、流石にミュート垂れ流し配信は許されなくなってきた気配がある。案外大事かもな)
神台映えの観点からすればゼノとエイミーは非常に優秀であり、今頃彼女はその能力を遺憾なく発揮していることだろう。何なら一人喋りもこなせるので場を保っている姿が想像できる。
「それじゃ、ディニエルの力も試せたことだし次に行こうか」
「次はウンディーネですか? 雷鳥ですか?」
「まだ前線の枚数足りないかはわからないから、単純に数を増やして問題ないかを確認するよ。ダリル、気合い入れてね」
「はい」
それともエ・レ・フォ? と言う気満々なリーレイアをいなしながら、努は次なるPTの連携を試していった。
更新ありがとうございます
ミュートあっても、ずっとライブ配信して生活かけてダンジョン探索してるのってストレスそう〜
そういえばこの世界、遠距離得意なジョブが少ないな
というかトップ争いの人達に少ない気がする